最終更新日:2026-09-14

PMI(統合作業)とは何か?中小企業庁のガイドラインを税理士事務所の承継に当てはめる

当サイトの買い手向けの記事は、顧問先への挨拶回り、スタッフの給与水準、会計ソフトの統一といった個別の論点を扱っています。これらはいずれもPMIと呼ばれる領域の話ですが、そのPMIが何を指し、どこからどこまでを含むのかを説明した記事はありませんでした。この記事でそこを整理します。

先に結論を書くと、押さえておきたい点は2つです。PMIは「M&Aが成立した後の作業」と説明されることが多いものの、公的なガイドラインは成立前からの検討を前提に組み立てられています。もう1つは、PMIが顧問先やスタッフとの信頼関係の構築まで含む概念であり、事務手続きの引き継ぎに限られないことです。

PMIとは何か

PMIについては、中小企業庁が中小PMIガイドライン(令和4年3月)を公表しています。同ガイドラインの用語集は、PMIをこう定義しています。

PMIとは、主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業であり、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なものである。POST MERGER INTEGRATIONの頭文字をとり、「PMI」と呼ばれる。

同ガイドラインは、事業を引き継ぐ譲受側(買い手)が実施することが望ましい取り組みを整理したものとして作られています。これに対して中小M&Aガイドラインは、譲り渡し側・譲り受け側・M&A支援機関を広く対象に、M&Aのプロセス全般の留意事項を扱うものです。両者は対象範囲が違うのであって、売り手向け・買い手向けという分かれ方をしているわけではありません。

PMIは、成立前の検討段階から始まる

定義の文言は成立後を指していますが、同ガイドラインはPMIそのものを次の3つに区分しています。

  • "プレ"PMI:M&A成立前におけるPMIに関連する取組
  • PMI:M&A成立後から一定期間(1年程度)におけるPMIの取組
  • "ポスト"PMI:上記の後に継続するPMIの取組

つまり、PMIの取り組みは成立前から始まるものとして定義されています。概要版は、この3区分の手前に「M&A初期検討」を加えた4段階で全体像を示しており、そこでは前半2つが「M&Aプロセス」、後半2つが「PMIプロセス」としてまとめられています。"プレ"PMIは名前のとおりPMIの一部でありながら、進行としてはM&Aの交渉の中に置かれている、ということです。

中小PMIガイドラインが示す4段階と、M&A成立の位置を示す図M&A成立M&A初期検討買う目的を決める“プレ”PMI成立までの準備PMI 集中実施期成立後 概ね1年“ポスト”PMIそれ以降M&AプロセスPMIプロセス
中小PMIガイドラインが示す4段階。M&A成立は“プレ”PMIと集中実施期の境界にあたる

集中実施期のうち、推進体制の確立、関係者との信頼関係の構築、成立後の現状把握については、同ガイドラインは100日までを目途に集中的に実施するものとしています。

検討を始めた時期と、M&Aの満足度の関係

同ガイドラインは、M&Aの満足度別に、PMIの検討をいつ始めたかを集計したデータを載せています(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2020年9月の調査を、中小企業庁が再編加工したもの)。各満足度の層を分母として、検討開始の時期がどう分かれたかを示したものです。

M&Aの満足度(各層を100%とする)M&Aプロセス中に検討開始クロージング完了後に検討開始、または検討しなかった
期待を上回る100%0%
ほぼ期待どおり83%17%
期待を下回る69%31%
かなり期待を下回る33%67%

満足度が高い層ほど、成立前からPMIの検討を始めていた割合が高くなっています。ただしこれは満足度別に開始時期を集計したものであり、早く始めたから満足度が高くなったという因果関係を示すものではありません。もともと計画的に進める買い手が、PMIの検討も早く始め、かつM&A自体もうまく運んだ、という読み方もできます。中小企業一般を対象とした調査で、税理士事務所に限った数字ではなく、概要版に標本数の記載もありません。

それでも、当サイトの個別記事で扱っている判断の多くが成立前に置かれていることとは整合します。何をどこまで統合するかという方針は譲渡範囲×統合スタイルの2つの選択肢で、顧問先の離脱をどこまで価格に見込むかは許容できる解約率の試算で、それぞれ成立前に検討する論点として扱っています。

なお、検討開始からクロージングまでに何をどの順で進めるかは、税理士事務所のM&Aはどれくらいかかるかで扱っています。

PMIが扱う3つの領域

同ガイドラインの基礎編は、PMIを「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の3領域に分けています。この区分に沿って、税理士事務所の承継では何が対応するのか、当サイトのどの記事がどこにあたるのかを整理します。

経営統合:向かう方向を決め、関係者に説明する

ガイドラインはこの領域を、前の経営者の退任によって失われる「会社のコア」を再構築する取り組みと説明しています。事務所に置き換えると、どの顧問先をどういう方針で見ていくのか、どこまで自分の事務所のやり方に寄せるのか、といった判断がここにあたります。

信頼関係構築:前所長・スタッフ・顧問先との関係をつくる

ガイドラインは相手方を「譲渡側経営者」「譲渡側従業員」「譲渡側取引先」の3つに分けています。事務所では、前所長・スタッフ・顧問先が対応します。従業員については「遅滞なく」「全員に」「同時に/等しく/正確に」伝えること、取引先については前の経営者からの協力を得ることを挙げています。

業務統合:実際の業務を引き継ぎ、変化に対応する

ガイドラインは、この領域で現状を把握する際の留意点として、デューデリジェンスでは検知できないことがあること、属人化している業務があること、規程等が存在しないか実態と乖離していることを挙げています。この3つは業種を問わない一般的な指摘ですが、所長1人と数名のスタッフで回している事務所では、いずれも起こり得る状態として確認しておく価値があります。

価格・資金調達・契約条件まで含めた買い手の検討全体は、買い手向けのトップページに意思決定の順番で並べています。

税理士事務所の承継で、特に注意したい3つの点

ここから先はガイドラインに業種別の記載があるわけではなく、事務所の実態に照らした筆者の整理です。

1つ目は、引き継ぐものの中心が人との関係に寄ることです。製造業や小売業であれば設備・在庫・店舗といった形のある資産が承継の対象に入りますが、税理士事務所で引き継ぐものは顧問契約とスタッフの雇用が中心になります。事業譲渡の形をとる場合、顧問契約の移転には顧問先本人の同意が、雇用の承継にはスタッフ本人の同意が、それぞれ個別に必要です(合併のような包括承継では扱いが異なります。詳細は統合方針の記事を参照してください)。3領域のうち信頼関係構築の比重が相対的に大きくなる、という見方ができます。

2つ目は、買い手本人に役割が集中しやすいことです。ガイドラインは、案件の規模に応じて「重要意思決定」「企画・推進」「実務作業」を分担することを勧めつつ、小規模案件では「基本的に譲受側経営者がほぼ全ての役割を担当」するとしています。その小規模案件の想定を、譲受側の売上高3億円程度まで、譲渡側の売上高1億円程度・従業員5名程度までと置いており、この規模に収まる事務所は少なくないと考えられます。買い手の所長が自分の事務所の業務を回しながら統合を進めることになりやすい、ということです。もっとも、ガイドラインは支援機関(弁護士・司法書士、中小企業診断士、公認会計士・税理士等)の助言を得ることも挙げており、外部への分担の余地はあります。

3つ目は、集中実施期が繁忙期と重なり得ることです。会計事務所の業務負荷が12月から翌年5月ごろにかけて高まりやすいことはM&Aの期間の記事で扱いましたが、そこで見たのはクロージングまでの工程との重なりでした。成立後の100日も同じ制約を受けます。クロージングの時期を選べる立場にあるなら、その後の100日がどこに来るかまで含めて考える余地があります。

まとめ

  • PMIはPost Merger Integrationの略で、中小企業庁の中小PMIガイドラインは「主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業」と定義している。同ガイドラインは譲受側(買い手)の取り組みを整理したもの
  • ただし同ガイドラインは、PMIを「"プレ"PMI(成立前)」「PMI(成立後1年程度)」「"ポスト"PMI(それ以降)」の3つに区分しており、取り組み自体は成立前から始まるものとして定義している
  • 同ガイドライン掲載の調査では、満足度が高い層ほど成立前から検討を始めていた割合が高い。ただし因果関係を示すデータではなく、税理士事務所に限った数字でもない
  • PMIの領域は「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の3つ。事務手続きの引き継ぎだけを指す言葉ではない
  • 税理士事務所の承継で特に注意したいのは、引き継ぐものが人との関係に寄ること、買い手本人に役割が集中しやすいこと、集中実施期が繁忙期と重なり得ることの3点

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)