最終更新日:2026-09-14
譲り受けた事務所のスタッフ、雇用形態を見直すべき?AI化・定型業務との向き合い方
事務所統合の方針をどう決めるかで統合方針を固めると、次に検討することになるのが、譲り受けた事務所のスタッフ体制です。この記事は、その中でも特に、AI化・自動化によって定型業務の位置づけが変わりつつある今、業務内容や人員配置をどう見直すか、その結果として雇用形態の見直しが選択肢になり得るかを整理するものです。
この記事は経営判断としての論点整理にとどめ、具体的な雇用条件の変更手続きや給与テーブルの設計には踏み込みません。実際の制度設計は、社会保険労務士等の専門家と連携して進めてください。
前提:AI化・業務量の変化だけで、労働条件を一方的に変更できるわけではない
AI化によって業務量が変わったとしても、それだけを理由に賃金や雇用形態を一方的に変更できるわけではありません。労働条件の変更は労使の合意が原則であり、就業規則の変更によって従業員に不利益な変更を行う場合も、変更の必要性・不利益の程度・内容の相当性・従業員との協議状況などを踏まえた合理性と、適切な周知が求められます。
また、事務所統合の方針をどう決めるかで触れた通り、雇用契約の承継に関する手続きも取引のスキーム(事業譲渡・株式譲渡・合併等)によって異なります。以下で扱う内容は、あくまで「どう検討するか」という経営判断の整理であり、実際にどのような合意・手続きが必要かは、取引のスキームと変更の内容に応じて専門家に確認してください。
判断材料は、デューデリジェンス段階で集められる
スタッフの業務内容・人員配置に関する検討は、統合が実際に始まってから考え始めるのではなく、少なくとも見直しの要否を判断するための材料集めと検証方針については、クロージング前から着手しておくことをおすすめします。デューデリジェンス段階で、譲り受ける事務所のスタッフ構成・業務内容・平均年齢等を把握できていれば、統合後の見通しを立てやすくなります。
クロージング前に決めておくべきなのは、特定の結論ではなく、判断材料と検証の進め方です。方向性が定まらないまま、現場の判断だけで場当たり的な対応が積み重なる事態は避けたいところです。
AI化・自動化が変える、定型業務の位置づけ
記帳・入力といった定型業務は、クラウド会計ソフトのAI仕訳機能やOCR等の活用によって、従来よりも少人数で対応できる可能性が広がっています。買い手側で既にこうしたシステムを導入している場合、譲り受けた事務所のスタッフが担ってきた業務内容と、統合後の実際の業務量にギャップが生じることがあります。
ただし、定型業務のすべてがAIに置き換わるわけではありません。入力結果の確認、例外的な処理への対応、顧問先ごとの個別事情を踏まえた判断など、人の関与が引き続き必要な部分は残ります。「AI化できるから人員を減らせる」という単純な図式で考えるのではなく、業務のうちどの部分が変わり、どの部分は変わらないかを、具体的に切り分けて検討することが出発点になります。
業務内容・人員配置の見直しで検討すべき論点
経営判断のレベルで検討しておきたい論点には、次のようなものがあります。
- 業務の再配置:定型入力業務にかけていた時間を、顧問先対応や相談業務など、人でなければ担いにくい業務にシフトできないか
- 統合後に必要となる総業務量:譲り受けた事務所単体の業務量だけでなく、統合後の事務所全体で見たときの繁閑差や必要人員
- 教育・リスキリングの可能性:人員を減らす方向ではなく、既存スタッフに新しい業務を担ってもらう方向で再配置できないか
- 変更の速度:急激な業務内容・人員配置の変更は、スタッフの離職リスクや、移行期間中の顧問先対応の質低下につながりやすいため、段階的な移行を検討する余地があるか
- 顧問先との関係維持への影響:担当スタッフの変更が、顧問先との関係にどう影響するか
これらの検討を踏まえたうえで、雇用形態そのものの見直し(勤務時間・雇用区分の変更等)が選択肢に上がることもありますが、それは業務・役割の整理の結果として検討するものであり、最初から雇用形態の変更を前提に進めるものではありません。
事務所にとって欠かせない存在であるスタッフ(キーパーソン)をどう引き止めるかは、資格の有無だけで決まるものではありません。この論点は、こちらの記事で扱っています。
なお、クロージング前の段階でスタッフ本人の意向を直接確認できるかどうかは、売り手との合意や、統合に関する情報をどこまで開示できる段階かに左右されます。売り手側とあらかじめ役割分担を確認したうえで進めてください。
制度設計は、専門家と連携する
雇用形態や業務内容の具体的な変更には、就業規則の変更、本人との個別合意、労働条件の明示・契約書面の整備など、取引のスキームや変更内容に応じた手続きが必要になる場合があります。この記事で扱ったのは、あくまで「どの方向性で検討するか」という経営判断の整理までです。具体的な制度設計・手続きは、社会保険労務士等の専門家と連携して進めてください。
まとめ
- AI化や業務量の変化だけを理由に、労働条件を一方的に変更できるわけではない。変更には合理性と適切な手続きが必要で、取引のスキームによっても扱いが異なる
- スタッフの業務内容・人員配置の検討は、少なくとも判断材料集めと検証方針についてはクロージング前から着手しておく。ただし特定の結論を固める必要はない
- AI化によって定型業務の位置づけは変わりつつあるが、すべてが置き換わるわけではない。業務のどの部分が変わり、どの部分は変わらないかを具体的に切り分ける
- 業務の再配置・総業務量・教育の可能性・変更の速度・顧問先への影響を踏まえて検討し、雇用形態の見直しはその結果としての選択肢と位置づける
- クロージング前のスタッフ本人への接触は、売り手との役割分担・情報開示の段階を踏まえて進める
- 具体的な雇用条件の変更・制度設計は、この記事の範囲外。社会保険労務士等の専門家と連携して進める
監修
税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)