最終更新日:2026-09-14

「なぜ売ったのですか?」顧問先からの想定質問にどう答えるか

挨拶回りは誰が・いつ・どの順番で回るべきかで触れた固定パートの説明とは別に、初回の面談では顧問先から質問が飛んでくる可能性があります。その場で答えに詰まったり、担当者によって答えがぶれたりしないよう、あらかじめ回答方針を準備しておく必要があります。この記事は、その場で実際に出てくることが多い質問と、買い手として答える際の考え方・回答例を整理するものです。

以下の回答例は、そのまま暗記して使う台本ではなく、考え方の土台として使ってください。実際に出てくる質問や適切な答え方は、顧問先との関係や個別の事情によって変わります。

回答方針は、面談の前にすべて決めておく

中でも「なぜ統合したのか」という説明は、事務所としての対外的な説明の骨格になるため、面談の直前ではなく、挨拶回りを始める前の段階で、買い手・売り手間で認識をすり合わせ、使う言葉まで含めて決めておく必要があります。

顧問先ごとに説明の内容や言葉遣いが食い違うと、それ自体が不信感につながります。以下で示す回答例は、いずれも「考えられる選択肢の一例」であり、唯一の正解ではありません。実際にどの方向性で答えるかは、統合方針や、前所長がどこまでの開示を望むかによって、事前に一つに統一しておいてください。

この記事で扱う質問は代表的なものに絞っていますが、実際にはこれ以外のあらゆる質問が想定されます。面談を始める前に、買い手・売り手間で想定QA集としてまとめ、回答方針を一つひとつ確認しておくことをおすすめします。担当者によって答えが変わることを防ぎ、想定していなかった質問に直面したときの負担も減らせます。

どの質問にも共通する心構え:不安を感じさせない伝え方

顧問先がこうした質問をする背景には、多くの場合「今後も安心して任せられるか」という不安があります。個々の回答の正確さだけでなく、伝え方そのものが不安を和らげることも、かえって増幅することもあります。どのトピックについて聞かれた場合でも、次の点は共通して意識しておきたいところです。

  • 曖昧にごまかさない一方で、事務的・法的な説明に終始しない。決まっていることは具体的に、未定のことは「未定です」と正直に伝える
  • 聞かれてから答えるだけでなく、顧問先が気にしそうな点は、聞かれる前にこちらから触れておく
  • 「ご安心ください」という言葉だけで終わらせず、なぜ安心してよいのかを、具体的な事実とセットで伝える
  • 一問一答の尋問のような雰囲気にならないよう、回答の後に、顧問先自身の状況や希望を聞く時間も取る

想定しておきたい質問

「なぜ事務所を統合(売却)したのですか?」

この質問には、売り手ではなく買い手が答える場面が生じることがあります。前所長が同席していれば前所長から説明してもらう進め方が候補になりますが、同席できない場合や、顧問先が買い手に直接尋ねてくる場合もあります。

答え方の方向性は、統合方針によっても変わり得ます。例えば次のような形が考えられますが、いずれも一例に過ぎません。

  • フル統合型に寄せている場合の例:「経営統合という形で、事務所の体制を一つにすることになりました」
  • スタンドアロン維持型に寄せている場合の例:「経営統合という形になりましたが、担当や運営はこれまで通りです」
  • 詳細を前所長に委ねる場合の例:「詳しい経緯は前所長からご説明いただく機会を設けますが、事業を引き継ぐ形でお手伝いすることになりました」

言葉の選び方には注意してください。実質的に経営主体が変わる取引であるにもかかわらず、対等な業務提携であるかのように聞こえる表現(「業務提携」「協力関係を結んだ」等)を使うと、実態と異なる印象を与えるおそれがあります。どこまで詳しく説明するかは事務所の判断次第ですが、使う言葉自体が事実と大きくずれないようにしてください。

買い手として答える際は、前所長の個人的な事情を憶測で語らないようにしてください。前所長から共有された事情(例:後継者不在、健康上の理由等)に触れるかどうか、どこまで触れるかも、その場で判断するのではなく、事前に前所長へ確認し、双方で合意した範囲にとどめてください。買い手が引継ぎの過程で聞いた事情のすべてを、顧問先に伝えてよいとは限りません。

「今までと同じように対応してもらえますか?」

事務所統合の方針をどう決めるかで扱った、フル統合型かスタンドアロン維持型かという統合方針によって、答え方が変わる質問です。

  • フル統合型に寄せている場合の回答例:「体制は一本化しますが、これまでの対応内容は引き継いだうえで、〇〇の面ではさらに対応できる範囲が広がります」
  • スタンドアロン維持型に寄せている場合の回答例:「担当や運営はこれまで通りです。経営の裏側が変わったことで、〇〇の面でサポート体制が強化されています」

変わる点・変わらない点を具体的に示さずに「変わりません」とだけ答えると、後で実態とのずれが生じたときに信頼を損ないやすくなります。

「担当者は変わりますか?」

実務上、多くの顧問先が気にする質問の一つです。

  • 担当者が変わる場合の回答例:「〇月から新しい担当がつきます。引継ぎ期間中は前任と一緒に対応しますので、ご不明点はいつでもお尋ねください」
  • 担当者が変わらない場合の回答例:「担当はこれまで通りです。経営主体が変わったことで、〇〇のような点はサポートが受けやすくなります」

「顧問料は変わりますか?」

改定を予定している場合、顧問料改定の記事で扱った、コスト起点ではなく便益起点で伝えるという考え方がそのまま当てはまります。

「今回の統合で〇〇にも対応できる体制になりましたので、□月分より顧問料の見直しについてご相談させてください」

改定を予定していない場合も、将来的に変更があり得るかどうかを含めて答えておくと、後日の説明がしやすくなります。

「現時点では変更を予定していません。今後見直す場合は、事前にご説明のうえでご相談します」

「今の契約は、このまま続けられますか?」

顧問契約の承継自体に顧問先の同意が必要なスキームもあるため、この質問への回答は、面談の場での雑談ではなく、契約手続きの一部として扱う必要があります。

「契約を引き継がせていただけるかどうか、あらためて書面でご確認をお願いすることになります。ご不明点があれば、この場でもご質問ください」

同意取得の手続きが済んでいない段階では、「もう契約は移っています」という趣旨の発言を避けてください。

「使っている会計ソフトは変わりますか?」

すぐに答えを用意できない場合も多い質問です。統合方針の検討段階でまだシステム移行の方針が固まっていない場合は、未確定のことを断定的に答えないようにしてください。

「現在検討中です。変更する場合は、切り替え時期も含めて事前にご案内します」

「自分の事務所の資料やデータは、これからどう扱われますか?」

決算書や税務資料、クラウド会計のデータなどが今後どう管理されるかを気にする質問です。回答は、法律上の話と実務上の話を分けて考えると整理しやすくなります。

  • 法律上の話:税理士には税理士法上の守秘義務があります。前所長や旧事務所の従業者がこれまで負っていた守秘義務は、退職や廃業によって当然に消えるものではありません。買い手側も、税理士業務として取り扱う情報について、同様に税理士法上の守秘義務を負います
  • 実務上の話:ただし、旧事務所の資料やデータを買い手側へ実際に引き継ぐかどうかは別の問題です。顧問契約の承継状況や、顧問先本人の同意を踏まえて進める必要があります

回答例としては、次のような形が考えられます。

「資料は従来と同様、税理士としての守秘義務のもとで管理します。具体的な保管方法やデータの扱いについては、〇〇のような形を予定しています」

保管場所やアクセス権限、利用しているクラウドサービスなど、実務上の管理体制が実際に変わる場合は、「守秘義務があるので安心です」で終わらせず、変わる点も具体的に伝えてください。

その他に考えられる質問

ここまでに挙げた質問は代表例です。次の質問も、想定QA集を作る際の出発点として使ってください。

  • 訪問頻度や、相談できるタイミングは変わりますか?
  • 前所長は、今後もこの事務所に関わりますか?
  • (税務調査や複雑な相談事項が進行中の顧問先の場合)現在対応中の案件はどうなりますか?
  • スタッフは変わりますか?前の事務所のスタッフはどうなりますか?
  • オンラインでの相談やリモート対応は、これまで通りできますか?

答えられない質問には、その場で無理に答えない

統合直後の時点では、買い手自身もまだ決めきれていないことが数多くあります。その場しのぎで曖昧に答えると、後から食い違いが生じて信頼を損なう可能性があります。「現時点では未定です」「確認して改めてご連絡します」と正直に伝え、後日フォローする方が、結果的に信頼を損ないにくいと考えられます。

まとめ

  • 回答例は暗記して使う台本ではなく、考え方の土台として使う。特に「なぜ統合したのか」の説明は、面談直前ではなく事前に買い手・売り手間ですり合わせ、顧問先ごとに説明が食い違わないようにする
  • どの質問に対しても、事務的な説明に終始せず、聞かれる前にこちらから触れる、安心の理由を具体的に添えるなど、不安を感じさせない伝え方を意識する
  • 「なぜ統合(売却)したのか」の答え方は統合方針によっても変わり得る。実態と異なる印象を与える言葉(対等な業務提携であるかのような表現等)は避け、前所長の個人的な事情は事前に合意した範囲にとどめる
  • 「今までと同じか」「担当者は変わるか」「顧問料は変わるか」は、統合方針や改定方針とセットで、変化点と変わらない点を具体的に伝える
  • 契約継続に顧問先の同意が必要な場合、その説明は雑談ではなく契約手続きの一部として扱う
  • システム移行など未確定の事項は、断定的に答えず「検討中」と正直に伝える
  • 資料・データの扱いは、法律上の守秘義務の話と、実務上の管理体制の話を分けて説明する。前所長・旧従業者の守秘義務は退職・廃業で当然には消えず、買い手側も同様の義務を負うが、資料そのものの引継ぎは顧問先の同意等を踏まえて進める必要がある
  • その場で答えられない質問は無理に答えず、確認のうえ後日フォローする

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)