最終更新日:2026-10-11
税理士が事務所を廃業するときの手続きとは?登録抹消の届出と、先に進めておく顧問先の引継ぎ
個人で開業している税理士が事務所を閉じるとき、税理士会での手続きは、届出書の提出と税理士証票などの返却が中心です。時間がかかるのはその前の段階で、顧問先の後任探しと引継ぎを進め、スタッフを雇っていればその今後を決めることです。この記事では、税理士会での手続きを確認したうえで、その前に進めておくことを整理します。
対象は個人の税理士事務所です。税理士法人の社員が抜ける場合や、法人そのものを解散する場合は手続きが異なります。法人の社員の要件は税理士法人を引き継ぐ場合に注意すべき税理士法の要件で扱っています。
税理士会に出すのは、登録抹消の届出書と退会届
手続きは、次の順で進みます。
- 業務を廃止する。法律上は、この時点で所属税理士会を当然に退会する(税理士法第49条の6第7項)
- 業務を廃止したことを、遅滞なく日本税理士会連合会に届け出る(税理士法第26条第2項)。届出書(税理士登録抹消届出書)は、日本税理士会連合会の様式の定めにより、所属していた税理士会を経由して提出する
- 日本税理士会連合会が登録を抹消する。抹消は、その事由とともに官報で公告される
- 登録が抹消されたら、遅滞なく税理士証票を日本税理士会連合会に返す(税理士法第28条)
東京税理士会の場合、提出するものと返すものは次のとおりです。
| 種類 | 内容 | 紛失しているとき |
|---|---|---|
| 提出する書類 | 税理士登録抹消届出書(本人または法定代理人の直筆)、税理士会員退会届。各1通 | — |
| 支部に提出する書類 | 税理士業務の事後処理についての連絡 | — |
| 返すもの | 税理士証票 | 亡失届出書と始末書 |
| 返すもの | 会員章(バッジ)、会員門標、略章(貸与を受けた人のみ) | 会員章・会員門標はそれぞれの亡失届 |
日付の扱いには注意が要ります。法律上は業務を廃止した時点で退会しますが、東京税理士会の案内では、登録抹消届出書に書く業務廃止の日は過去の日付でもかまわない一方、退会届に書く退会日はさかのぼれません。郵送した場合は、原則として税理士会に届いた日が退会届上の退会日になり、会費はこの日に応じて月割りで精算されます。業務廃止の日と退会届の日付が離れる場合の扱いは、所属する会に確認してください。
様式や提出部数は税理士会によって異なります。たとえば北陸税理士会は、登録抹消届出書を2通求め、未使用の職務上請求書の返却も求めています。所属する会の案内で確認してください。また、税理士会での手続きとは別に、事業をやめることについての税務署などへの届出も必要です。
顧問先の引継ぎ状況も、税理士会に知らせる
東京税理士会では、上の表の「税理士業務の事後処理についての連絡」を所属支部に出します。北陸税理士会でも、開業税理士は「退会に伴う税理士事務所の事後処理について」という書類を出します。東京税理士会の様式では、開業税理士は次の4つから当てはまるものを選びます。
- 顧問先にそれぞれ継承者を紹介するなど、残務整理は完了している
- 税理士業務を行っていなかった
- 特定の税理士が継承することになっている(その税理士の氏名・登録番号・事務所を書く)
- その他(特記事項に詳しく書く)
業務を行っていた開業税理士は、顧問先を誰に引き継いだか、あるいは引継ぎがどこまで進んでいるかを、この書類で知らせることになります。「その他」の欄もあるので、すべての顧問先の行き先が決まっていなければ届け出られない、というわけではありません。ただ、書類を出す段階でここに書く中身が固まっているように、顧問先の引継ぎは届出より前に進めておくのが自然です。
時間がかかるのは、顧問先への対応
契約を終える時期は、決算や申告の直前を避ける
顧問契約が委任や準委任にあたる場合、当事者はいつでも解除できます。ただし民法は、相手方に不利な時期に解除した場合、やむを得ない事由があるときを除いて、損害を賠償しなければならないと定めています(民法第651条。準委任には第656条で準用)。
決算や申告の期限が近い顧問先にとっては、その直前に担当の税理士がいなくなることが、ここでいう不利な時期にあたるおそれがあります。廃業を伝える時期は、顧問先が次の税理士を探し、引継ぎを終えられるだけの余裕を見て決めます。期限が迫っている顧問先は、その申告までは自分で担当してから契約を終える、という組み方もあります。
次の税理士を決める
顧問先の行き先は、一人の税理士にまとめて引き継いでもらうか、顧問先ごとに決めるかに分かれます。顧問先ごとに決める場合は、知り合いの税理士を紹介するか、顧問先自身に探してもらいます。紹介しても引き受けてくれるかどうかは相手の税理士の判断なので、顧問先の数が多いほど調整に時間がかかります。
預かっている帳簿や資料を後任の税理士に渡すときは、守秘義務に注意し、渡し方を顧問先と確認してから渡します。守秘義務は、税理士でなくなった後も続きます。
顧問先に何をどの順で伝えるかは、譲渡の場合と考え方が共通しています。案内状の書き方は顧問先への通知文・案内状には何を書くべき?を参考にしてください。
自分の業務処理簿は、閉鎖後5年間保存する
税理士は、委嘱者別・一件ごとに業務の内容と経過を記載した帳簿を作り、閉鎖後5年間保存しなければなりません(税理士法第41条)。廃業後に誰がどう保管するかは、所属税理士会に確認しておくと確実です。
スタッフを解雇するなら、原則30日前までに予告する
廃業に伴ってスタッフを解雇する場合は、原則として少なくとも30日前に予告します。予告が30日に足りないときは、足りない日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払えばその分だけ予告期間を短くでき、予告をしない場合は30日分以上を支払います(労働基準法第20条)。
ただ、これは解雇予告についての最低限の手当てで、予告をすれば解雇が当然に有効になるわけでもありません。スタッフにとっては次の職場を探す期間が要るので、顧問先への告知と同じ時期かそれより前に伝えるのが現実的です。顧問先を引き受けてくれる税理士がいるなら、本人の意向を確かめたうえで、担当していたスタッフを一緒に雇ってもらえないか相談する余地もあります。伝える順番の考え方はスタッフへの売却告知はいつ・誰から?と共通しています。
顧問先への対応は、廃業でも譲渡でも要る
ここまでの作業を、事務所を譲渡する場合と並べると、次のようになります。
| 廃業 | 譲渡 | |
|---|---|---|
| 顧問先の行き先 | 一人の税理士をまとめて紹介するか、顧問先ごとに紹介する(契約するかは各顧問先の判断) | 譲受人が引き受ける(移るかどうかは各顧問先の判断) |
| スタッフ(雇っている場合) | 解雇する場合は予告か予告手当。本人の意向を前提に、引受先に雇ってもらえないか個別に相談する | 本人の意向と承諾を前提に、引き続き雇ってもらえるかを譲受人と交渉する |
| 所長の関与 | 業務を廃止する日までに顧問業務と引継ぎを終え、その後は書類の返却などの事後処理を行う | 引継ぎ期間を設けて関与することが多い |
| 事務所の対価 | 受け取らない | 有償で譲渡するなら受け取る |
| 税理士会の手続き | 登録抹消の届出 | 業務をやめるなら同じく登録抹消の届出。譲受人の事務所の所属税理士になるなど、登録事項が変わるなら変更登録 |
顧問先に事情を伝えて後任につなぎ、スタッフがいればその今後を決める作業は、廃業でも譲渡でも必要です。主な違いは、譲渡では引き受ける相手(譲受人)が先に決まり、スタッフの雇用や引継ぎ期間も含めてその相手とまとめて交渉できることと、有償なら対価があることです。
それでも廃業を選ぶのは、たとえば次のような場合です。
- 体調などの事情で、譲渡先を探す時間がない(承継を急ぐ場合に何を優先すべきかも参照してください)
- 譲渡先を探したが、見つからなかった
- 顧問先を任せたい税理士がすでにいて、対価を受け取るつもりがない
時間に余裕があるなら、廃業の手続きに入る前に、譲渡した場合にどれくらいの価格になるかを一度確かめておく価値はあります。目安は税理士事務所の売却相場で整理しています。譲渡先を探したものの見つからずに廃業し、新たな取り組みを始める場合は、事業承継・M&A補助金の廃業・再チャレンジ枠の対象になることがあります。要件は事業承継・M&A補助金の4つの枠で整理しています。
登録を抹消しても、再登録は申請できる
一度登録を抹消した後でも、改めて登録を申請できます。日本税理士会連合会の案内では、登録免許税(6万円)を納め、登録を抹消した理由と再登録する理由を書いた書面も提出します。
開業はやめるが税理士の登録は残したい、という場合は、廃業ではなく、ほかの事務所の所属税理士になる方法もあります。この場合は登録の抹消ではなく、変更登録の手続きになります。
まとめ
- 業務を廃止したら、所属税理士会を経由して日本税理士会連合会に届け出る。登録が抹消されたら税理士証票を返す。様式・部数は所属する税理士会で確認する
- 法律上は業務を廃止した時点で退会する。一方、東京税理士会の退会届に書く退会日はさかのぼれず、郵送なら税理士会に届いた日が原則として退会届上の退会日になる
- 東京税理士会・北陸税理士会では、開業税理士は顧問先の引継ぎなど事後処理の状況を知らせる書類も出す。引継ぎは届出より前に進めておく
- 顧問契約を終える時期は、決算・申告の直前を避ける。不利な時期の解除は、損害賠償の対象になりうる
- スタッフを解雇するなら、原則30日前までに予告する。足りない日数分は予告手当で補える。実際には、顧問先と同じ時期かそれより前に伝える
- 顧問先への対応と、スタッフがいればその対応は、廃業でも譲渡でも要る。主な違いは、譲渡では引き受ける相手が先に決まり、雇用や引継ぎ期間もまとめて交渉できることと、有償なら対価があること
最終確認日:2026年10月11日(税理士会の手続きの案内と登録免許税の額は、変更されることがあります。東京税理士会・北陸税理士会・日本税理士会連合会の各ページで確認しています)
監修
税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)