最終更新日:2026-09-14
税理士法人を引き継ぐ場合に注意すべき税理士法の要件と届出の期限
事務所を譲り受けると、税理士会への届出や登記といった手続きが発生します。契約や統合の話に比べれば事務作業に見える部分です。
ただ、譲り受ける事務所が税理士法人である場合、手続きの話に入る前に、そもそも自分がその法人を引き受けられる体制にあるかという制約が4つあります。いずれも税理士法に定めがあり、当事者の合意では動かせません。この記事では先にその4つを確認し、そのうえで買い手・売り手それぞれに発生する手続きと期限を整理します。
譲り受ける事務所が個人事務所である場合、この4つは関係しません。手続きの部分だけを読んでください。
なお、この記事は制度の枠組みを整理するものです。個別の当てはめは所属税理士会に、登記については司法書士に確認してください。条文の内容は日本税理士会連合会「税理士法人の手引」(令和5年5月)で確認しています。
制約1:社員が1人の状態は続けられない
税理士法人の社員(パートナー)は、税理士でなければならないとされています(税理士法第48条の4第1項)。そのうえで、人数について同法はこう定めています。
税理士法人は、前項の規定による場合のほか、社員が1人になり、そのなつた日から引き続き6月間その社員が2人以上にならなかつた場合においても、その6月を経過した時に解散する。(第48条の18第2項)
社員が1人になった瞬間に解散するわけではなく、6か月の是正期間があります。逆に言えば、その6か月の間に2人以上に戻せなければ、法人は解散します。この要件は令和4年の税理士法改正でも変わっていません。司法書士法人や社会保険労務士法人が一人法人を認めているため、他士業の話と混同しやすい点です。
買い手として押さえておきたいのは、社員になれるのは税理士個人だけで、法人は社員になれないことです。買い手が税理士法人であっても、社員として登録されるのはその法人に所属する税理士個人です。
持分を全部取得すると、社員は自分1人になる
一番わかりやすく問題になるのが、1人の税理士が持分を全部買い取る形です。
税理士法人の持分は株式とは違い、譲渡するには他の社員全員の承諾が必要です(第48条の21第1項による会社法585条第1項の準用。定款で別段の定めを置くことはできます)。そして持分を譲り受けた人は、出資持分だけでなく社員としての地位を得ます。
そのため、1人の税理士が持分を全部取得すると、社員は自分1人になり、その時点で6か月の期限が動き始めます。6か月以内にもう1人を社員として迎えなければ法人は解散し、清算手続きに入ります。顧問契約を持っている法人そのものがなくなるため、引き受けた意味が失われかねません。
「税理士法人を丸ごと買う」という言い方は株式譲渡を思い浮かべやすいのですが、税理士法人ではこの形をそのまま取ることはできないと考えておいた方が安全です。もう1人のあてがあるかどうかが、先に決まっている必要があります。
前所長が抜けた後に1人にならないか
持分を全部取得しない場合も、時間差で同じことが起きます。買い手が社員として加入し、前所長にしばらく社員として残ってもらう形にしても、その前所長がロックアップ期間を終えて脱退した時点で社員が自分1人になるなら、そこから6か月の期限が動き始めます。
契約段階で、誰がいつ抜けて、その後に社員が何人残るのかを確認しておく必要があります。
制約2:事務所ごとに社員を常駐させなければならない
税理士法人の事務所には、その事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員である社員を常駐させなければならない。(第48条の12)
この常駐義務は、主たる事務所だけでなく従たる事務所にも及び、各事務所に1人以上が必要とされています(基本通達48の12-1)。常駐が求められるのは社員税理士であり、所属税理士では要件を満たしません。
譲り受けた事務所を閉鎖せずに従たる事務所として残す場合、そこに常駐する社員税理士が1人必要になります。自分がもともと持っている事務所を残すなら、そちらにも1人必要です。1人で2か所を兼ねることはできません。
逆に、譲り受けた事務所を残さず自分の事務所に統合してしまうなら、この制約は問題になりません。事務所を残すかどうかは統合方針そのものの判断なので、事務所統合の方針をどう決めるかとあわせて考えることになります。
制約3:社員になると、個人の事務所で税理士業務を続けられない
税理士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその税理士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の税理士法人の社員となつてはならない。(第48条の14第1項)
合名会社について定めた会社法594条には、他の社員全員の承認があれば競業を認める例外がありますが、税理士法人にはこの規定が準用されていません。逐条解説では、定款の定めや他の社員全員の承認があっても解除されない絶対的な禁止と説明されています。他の税理士法人の社員を兼ねることもできません。
個人開業の税理士が社員として税理士法人に入る場合、自分の個人事務所で税理士業務を続けることはできなくなります。個人事務所をどう処理するか(法人に取り込むか、たたむか)は、引き受け方を決める段階で答えを出しておく論点です。
制約4:社員は、自分が加入する前の債務についても責任を負う
税理士法人の社員は、法人の財産で債務を完済できないときなどに、連帯して弁済する責任を負います(第48条の21第1項による会社法580条第1項の準用)。株式会社の株主のように出資額を上限とする責任ではありません。
そのうえで、新たに加入した社員は、加入前に生じた債務についても責任を負います(同項による会社法605条の準用)。
そのため、デューデリジェンスで簿外債務や係争の有無をどこまで確認するかは、事業譲渡で顧問先だけを引き受ける場合と、同じ重みでは語れません。
4つを合わせると、何が言えるか
対象の税理士法人を同じ法人のまま引き継げるかどうかは、売り手側の社員が抜けたあとに、社員を2人以上に保てる体制を用意できるかどうかで分かれます。用意できないのであれば、法人格を引き継がない形を検討することになります。
左側に挙げた「もう1人を確保する」手段のうち、対象法人にすでにいる所属税理士を社員にする形は、外から人を連れてくるより現実的な場合があります。ただし社員になれば競業禁止と無限連帯責任がその人にも及ぶため、本人の同意が前提です。誰がキーパーソンかの見極めはキーパーソンの引き止めで扱っています。
買い手側で発生する手続き
変更登録(第20条)
税理士は、第18条の規定により登録を受けた事項に変更を生じたときは、遅滞なく変更の登録を申請しなければならない。(第20条)
申請は、所属税理士会を経由して日本税理士会連合会に、変更登録申請書を提出する形で行います(税理士法施行規則10条)。
見落としやすいのが、登録の区分が変わる場合も対象になることです。税理士名簿には、開業税理士・社員税理士・所属税理士のいずれであるかに応じて異なる事項を登録します。社員税理士なら所属する税理士法人の名称と執務する事務所の所在地、開業税理士なら設ける事務所の名称と所在地、といった具合です(施行規則8条2号)。区分が変われば登録する内容そのものが変わるため、開業税理士が社員税理士になる場合も変更登録の対象になります(基本通達20-1)。
日本税理士会連合会の手引は、法人としての届出と、社員になった税理士個人の変更登録は別の手続きであり、あわせて行う必要があると明記しています。
事業譲渡で顧問先を取得したこと自体は、登録区分を変えるものではありません。ただし事務所を増やす・移す場合は所在地の変更登録が発生します。
定款の変更と届出(第48条の13)
税理士法人の定款には、社員の氏名及び住所を記載しなければならないとされています(第48条の8第3項第4号)。そのため社員が入れ替わると、定款の内容も変わります。
ただし、加入と脱退では手当ての仕方が違います。
- 社員が加入する場合:定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって定款を変更します(第48条の13第1項)
- 社員が脱退する場合:脱退した時点で、別途の同意手続きを経なくても、その社員に係る定款の定めを廃止する定款の変更をしたものとみなされます(第48条の21第1項による会社法610条の準用)
いずれの場合も、届出は必要です。定款を変更したときは、変更の日から2週間以内に、変更に係る事項を主たる事務所の所在地の税理士会を経由して、日本税理士会連合会に届け出ます(第48条の13第2項)。従たる事務所を設ける場合も、同じく定款の変更にあたります。
登記
税理士法人の社員は全員が業務を執行する権利を有し、義務を負います(第48条の11)。代表については会社法の規定が準用され、業務を執行する社員が2人以上いる場合は各自が法人を代表するのが原則です。ただし定款または定款の定めに基づく社員の互選によって、代表社員を定めることもできます(第48条の21第1項による会社法599条の準用)。総社員の同意で決める、という形ではない点に注意してください。
登記事項は組合等登記令に定めがあり、税理士法人については、代表権を有する者の氏名・住所・資格に加えて、代表社員以外の社員の氏名及び住所も登記事項とされています。代表社員を定めているかどうかにかかわらず、社員が入れ替われば登記事項の変更が生じることになります。
登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に主たる事務所の所在地において変更の登記をしなければならないとされています(組合等登記令3条1項)。届出とは別に走る期限なので、実際の要否と手順は司法書士に確認してください。
合併の場合(第48条の19)
自分がすでに税理士法人を持っていて、譲り受ける事務所も税理士法人であれば、合併という形もあります。手続きの順序を誤解しやすいので、条文に沿って確認します。
1. 総社員の同意
税理士法人は、総社員の同意があるときは、他の税理士法人と合併することができます(第48条の19第1項)。合併できる相手は税理士法人に限られ、監査法人や弁護士法人との合併は認められていません。
2. 債権者の異議手続き
合併をする税理士法人の債権者は、合併について異議を述べることができます(第48条の19の2第1項)。そのため、合併をする旨などを官報に公告し、知れている債権者には各別に催告しなければなりません。異議を述べることができる期間は1月を下ることができないとされています(同条第2項)。
ただし、官報に加えて日刊新聞紙への掲載または電子公告でも公告する場合は、各別の催告は不要です(同条第3項)。定款で公告方法を定めてあるかどうかで手間が変わります。
期間内に異議が述べられなかったときは承認したものとみなされます(同条第4項)。異議が述べられたときは、弁済・相当の担保の提供・信託会社等への財産の信託のいずれかの対応が必要になります。ただし、合併しても債権者を害するおそれがないときはこの限りではありません(同条第5項)。
3. 登記
合併の効力は、存続法人または新設法人が主たる事務所の所在地において登記をすることによって生じます(第48条の19第2項)。登記は、合併に必要な手続が終了した日から、主たる事務所の所在地においては2週間以内、従たる事務所の所在地においては3週間以内に行います(組合等登記令8条)。存続法人は変更の登記、消滅法人は解散の登記、新設法人は設立の登記です。
4. 届出
合併の日から2週間以内に、登記事項証明書(新設合併の場合は登記事項証明書及び定款の写し)を添えて、主たる事務所の所在地の税理士会を経由して日本税理士会連合会に届け出ます(第48条の19第3項)。
つまり、合併について行政の事前認可を受ける必要はありません。ただし、事前認可がないことと、待ち時間がないことは別です。総社員の同意、1月以上の債権者異議期間、登記の準備にかかる期間は、工程表に見込んでおく必要があります。
なお、存続法人または新設法人は、消滅法人の権利義務を承継します(第48条の19第4項)。顧問契約上の地位も法律上は移転するため、契約を結び直す必要が常に生じるわけではありません。一方で、請求書や振込先、契約管理、システム上の登録名義などを存続法人に更新する実務は発生します。顧問先への案内をどう出すかは顧問先への通知文・案内状には何を書くべき?で扱っています。
売り手側で発生する手続き
提出先は買い手と同じ税理士会・日本税理士会連合会なので、あわせて把握しておくと段取りを組みやすくなります。
法人の社員から抜ける場合
社員が当然に脱退する理由は第48条の17に列挙されています。税理士の登録の抹消、定款に定める理由の発生、総社員の同意、他士業の懲戒処分等により第43条に該当することとなったこと、税理士業務の停止処分、除名の6つです。
任意の脱退についても、会社法の規定が準用されています(第48条の21第1項による会社法606条の準用)。法人の存続期間を定款で定めなかった場合、またはある社員の終身の間法人が存続することを定款で定めた場合には、各社員は事業年度の終了の時に退社でき、その際は6箇月前までに予告しなければならないとされています(同条第1項)。やむを得ない事由があるときは、いつでも退社できます(同条第3項)。
注意したいのは、この予告と時期の定めについて、定款で別段の定めをすることが認められている点です(同条第2項)。期間が長く設定されていることも、逆に短く定めてあることもあり得るので、対象法人の定款を実際に確認する必要があります。
この予告期間と事業年度末という区切りが、ロックアップ期間の終わり方と噛み合っていないと、想定した時期に抜けられないことがあります。もっとも、実際には総社員の同意による脱退を設計しておく形もあるため、任意脱退だけを前提に考える必要はありません。売り手がいつ抜けるかは、「1年間残ってほしい」と言われたら?引継ぎ期間に売り手が行う業務を解説で扱った関与の範囲と合わせて、契約段階で詰めておく論点です。
脱退した後も責任が残る点にも注意が必要です。脱退した社員は脱退前に生じた債務について従前の責任の範囲内で責任を負い、債権者から請求等がないまま2年を経過した時点でその責任が消滅します(第48条の21第1項による会社法612条の準用)。
引退して税理士業務をやめる場合
税理士が業務を廃止したときは、日本税理士会連合会が登録を抹消します(第26条第1項第1号)。抹消は連合会が行うものですが、そのきっかけとなる届出は本人が行います。同条第2項は、業務の廃止・死亡等に該当することとなったときは、本人・法定代理人・相続人が遅滞なくその旨を届け出なければならないと定めています。
譲渡後も税理士としての登録を続ける場合(顧問として関与を続ける、別の事務所に所属するなど)は抹消にはあたりませんが、区分や事務所の変更に応じた変更登録が必要になります。
期限のまとめ
| 手続き | 根拠 | 期限 | 提出先 |
|---|---|---|---|
| 変更登録の申請(区分・事務所・氏名等) | 法20条 | 遅滞なく | 所属税理士会を経由して日本税理士会連合会 |
| 定款変更の届出(社員の変更、従たる事務所の設置等) | 法48条の13第2項 | 変更の日から2週間以内 | 主たる事務所の所在地の税理士会を経由して日本税理士会連合会 |
| 合併の届出 | 法48条の19第3項 | 合併の日から2週間以内 | 同上 |
| 解散の届出(合併以外の事由) | 法48条の18第3項 | 解散の日から2週間以内 | 同上 |
| 業務廃止等の届出(登録の抹消) | 法26条第2項 | 遅滞なく | 日本税理士会連合会 |
| 登記事項の変更登記 | 組合等登記令3条1項 | 2週間以内(主たる事務所の所在地) | 法務局 |
| 合併の登記 | 組合等登記令8条 | 手続終了日から2週間以内(主たる事務所)、3週間以内(従たる事務所) | 法務局 |
届出以外にも、期間の制約が3つあります。
- 社員が1人になった場合の是正期間:6か月(法48条の18第2項)
- 合併の債権者異議期間:1月以上(法48条の19の2第2項)
- 任意脱退の予告期間:原則6箇月前まで、事業年度の終了の時に退社(会社法606条第1項の準用。定款で別段の定めが可能)
「遅滞なく」と「2週間以内」が混在している点に注意してください。クロージング後にまとめて処理しようとすると、2週間の方が先に来ます。ただし、起算日となる「変更の日」「合併の日」がクロージング日と一致するとは限らないため、実際の期限は個別に確認してください。
まとめ
- 税理士法人を同じ法人のまま引き継ぐ場合、手続きの前に4つの制約が効く。社員が1人の状態は続けられない(法48条の18第2項)、事務所ごとの社員の常駐(法48条の12)、社員の競業禁止(法48条の14)、加入前の債務まで負う社員の責任(会社法605条の準用)
- 社員が1人になっても即解散ではなく6か月の是正期間があるが、その間に2人以上に戻せなければ解散する。この要件は令和4年改正でも変わっておらず、一人法人を認めている他士業とは異なる
- 同じ法人のまま引き継げるかどうかは、売り手側の社員が抜けたあとに社員を2人以上に保てるかで分かれる。対象法人の所属税理士を社員にする、外部から迎える、といった手段がある。用意できないなら、事業譲渡や自社の税理士法人への吸収合併など、法人格を引き継がない形を検討する
- 持分の譲渡には他の社員全員の承諾が要る(会社法585条第1項の準用)。1人の税理士が持分を全部取得すると社員は自分1人になり、そこから6か月の期限が動き始める
- 変更登録は、登録の区分が変わる場合も対象になる。法人としての届出と、社員個人の変更登録は別の手続き
- 社員の加入は総社員の同意による定款変更、脱退は定款変更があったものとみなされる。届出はいずれも2週間以内
- 代表社員は、総社員の同意ではなく、定款または定款の定めに基づく社員の互選で定める
- 合併に行政の事前認可は不要だが、総社員の同意、1月以上の債権者異議期間、登記の準備にかかる期間は工程表に見込む。官報に加えて日刊新聞紙または電子公告でも公告すれば、債権者への各別の催告は不要になる
- 売り手側の任意脱退は原則6箇月前の予告と事業年度の終了の時。定款で別段の定めができるため、定款の確認が要る
- 届出の期限は「遅滞なく」と「2週間以内」が混在し、登記は別に2週間の期限が走る
監修
税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)