最終更新日:2026-09-14

税理士事務所のM&Aで使える補助金は?事業承継・M&A補助金4つの枠を整理(2026年8月時点)

M&Aに活用できる代表的な公的支援制度が「事業承継・M&A補助金」です。ただし、この制度は公募回次ごとに要件や補助上限額が変わるため、この記事は個別の要件を丸ごと覚えるための記事ではなく、まず「4つの枠のうち自分に関係するのはどれか」を把握するための入口として使ってください。個別の要件は、必ず最新の公募要領で確認することをおすすめします。なお、国の制度とは別に、都道府県・市区町村が独自に実施している補助金・助成金もあります。東京都の例は「東京都の事業承継支援助成金とは?国の補助金との違いを整理」で扱っています。

4つの枠があり、立場によって使う枠が違う

正式名称は「事業承継・M&A補助金」です(令和6年度に「事業承継・引継ぎ補助金」から名称変更されました)。4つの枠で構成されています。

枠対象主に関係する立場
事業承継促進枠5年以内に親族内承継・従業員承継を予定する事業者売り手(事務所内承継ルート)
専門家活用枠買い手・売り手問わず、経営資源の譲り渡し・譲り受けを予定する事業者売り手・買い手の双方
PMI推進枠M&A成立後の経営統合を円滑に進める企業買い手
廃業・再チャレンジ枠事業承継・事業引継ぎに伴う廃業・再チャレンジを検討・実施予定の事業者売り手

このうち、廃業・再チャレンジ枠は事業を畳む売り手のための枠、PMI推進枠は統合を進める買い手のための枠のため、それぞれ逆の立場では利用できません。専門家活用枠だけが、売り手・買い手双方に類型を持つ枠です。

売り手に関係する枠

事業承継促進枠

事務所を親族やスタッフに引き継ぐ方向で検討している場合に関係します。そもそも自分がどの方向に向いているのかをまだ整理できていない場合は、補助金の要件を先に調べるより、まず現状の整理から始めることをおすすめします。その整理の入口は「事務所承継を考え始めるタイミングとは?後継者の有無で分かる3つの道」で扱っています。

項目内容
補助率小規模事業者:3分の2以内、その他の中小企業:2分の1以内
補助上限額1,000万円(賃上げ要件達成で1,200万円。廃業費併用でさらに300万円以内を加算可能)
対象5年以内に親族内承継・従業員承継を予定する事業者(後継者側)
用途設備投資費、原材料費、外注費・委託費、販路開拓費、知的財産権関連費等

後継者側の要件として、対象会社の役員(税理士法人の場合は社員)または従業員として通算3年以上の在籍実績があること、かつ代表者(代表社員)の交代が登記上確認できることが必要です。そのため、すでに長く在籍している社員税理士やスタッフへの承継であれば対象になり得ますが、M&Aで新しく迎え入れた税理士に、加入直後に代表者の地位を譲るような形では、在籍実績の要件を満たせない可能性が高い点に注意してください。

専門家活用枠(売り手側)

第三者承継(M&A)を検討している売り手に関係します。売り手支援類型には2つの区分があり、2026年5月22日公表の第15次公募から小規模売り手支援類型が新設されました。

類型補助率補助上限額対象
小規模売り手支援類型3分の2450万円サービス業で従業員5人以下など、小規模事業者に該当する売り手
売り手支援類型(小規模以外)2分の1(要件により3分の2)600万円(デューデリジェンス(DD)費用でさらに200万円加算可能)小規模事業者に該当しない売り手

用途はいずれも、M&A支援機関登録制度に登録された仲介会社・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)に支払う着手金・成功報酬等です(売り手支援類型はDD費用も対象になります)。

個人・小規模の税理士事務所は、「小規模事業者」の要件に該当する可能性があります。仲介手数料の負担を補助する制度のため、仲介手数料がなぜ仲介会社によって金額感が異なるのかを理解した上で、見積もり額に対してどれだけ補助が効くかを試算しておくと、仲介会社選びの判断材料になります。自分の事務所が要件(従業員数・業種区分等)に該当するかは、必ず最新の公募要領で確認してください。

廃業・再チャレンジ枠

税理士事務所を廃業し、新たな取り組みにチャレンジする場合に関係する枠です。M&Aで譲渡先を探したものの見つからず、やむを得ず廃業に至った事業者を主な対象として想定されており、廃業にかかる費用だけでなく、廃業後に新たな取り組みを始めるための費用も支援対象に含まれます。なお、再チャレンジ先が税理士業と異なる業種でなければならないという要件は公募要領上確認できません(新たに法人を設立する、個人事業として再開する、知識・経験を活かせる企業へ就職する等、いずれも想定されています)。

項目内容
補助率3分の2以内
補助上限額300万円(単独申請の場合)
対象事業承継・事業引継ぎに伴う廃業・再チャレンジを検討・実施予定の事業者
用途廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費等

正直なところ、承継・M&Aを目指している段階の読者にとって、この枠の実際の使い道は限定的です。対象になるのは、承継・M&Aの試みが実らず、かつ廃業後に何らかの新たな取り組みを始める場合に限られるためです。例えば、地方で個人開業していた税理士が、高齢・後継者不在で譲渡先を探したものの顧問先数が少なく買い手がつかず、やむを得ず廃業したケースで、賃貸オフィスの原状回復費用や紙の顧問先資料の適正な廃棄処分費用等をこの枠で賄い、廃業後に新たな取り組みを始める、といった場合が該当し得ます。承継・M&Aがうまくいくことを前提に検討している段階では、基本的に関係しない枠だと理解しておいてください。

買い手に関係する枠

専門家活用枠(買い手側)

補助事業期間内に発生するM&A関連の専門家費用を対象とする点は売り手側と共通ですが、対象となる立場・類型が異なります。

項目内容
補助率3分の2(原則。100億企業特例では1,000万円以下の部分2分の1、超過部分3分の1)
補助上限額600〜800万円(DD費用で上乗せ可。100億企業特例では2,000万円)
対象経営資源を他者から譲り受ける買い手
用途登録FA・仲介手数料(着手金・中間金・成功報酬等)、DD費用、表明保証保険料、セカンドオピニオン費用、システム利用料等

PMI推進枠

M&A成立後の統合(PMI)にかかる費用を対象とする枠で、「専門家活用類型」「事業統合投資類型」の2類型があります(同一公募回での同時申請はできません)。

類型補助率補助上限額用途
専門家活用類型2分の1以内150万円PMI専門家(金融機関・弁護士・会計士・税理士・中小企業診断士等)の活用費用
事業統合投資類型原則2分の1以内(小規模事業者は800万円相当部分まで3分の2以内)800万円(賃上げ要件達成で1,000万円。100億企業特例で2,000万円)統合効果を高める設備投資・改装費・システム統合費等

何を、どう統合するかという方針が固まっていないと、PMI推進枠で何を申請すべきかも判断しづらくなります。この方針の整理は「事務所統合の方針をどう決めるか?譲渡範囲×統合スタイルの2つの選択肢」で扱っています。

運用上、事前に知っておきたい注意点

  • 公募回次ごとに要件・補助率・上限額が変わります。この記事の数字は2026年5月22日公表の第15次公募時点のものです。次回以降の公募では変更される可能性があるため、申請を具体的に検討する段階では、必ず事業承継・M&A補助金の公式サイトで最新の公募要領を確認してください
  • 補助金は後払いの制度です。交付決定を受けた後、実際にM&Aや専門家への支払いを実行し、実績報告・確定検査を経て初めて入金されるため、着手金や成功報酬の支払いが先行し、補助金の入金までにはまとまった期間がかかります。支払いのタイミングによっては、入金前につなぎ資金が必要になる場面があることは、あらかじめ想定しておくべきポイントです
  • 申請は、GビズIDプライムアカウントの取得を前提とした電子申請システム(Jグランツ)経由のみで受け付けられます。GビズIDプライムアカウントは発行までに一定の日数がかかるため、申請を検討し始めた段階で早めに取得しておくことをおすすめします

まとめ

  • 事業承継・M&A補助金は4つの枠(事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠・廃業・再チャレンジ枠)で構成される
  • 売り手は事業承継促進枠・廃業・再チャレンジ枠・専門家活用枠、買い手は専門家活用枠・PMI推進枠が主に関係する。廃業・再チャレンジ枠とPMI推進枠は、それぞれ逆の立場では利用できない
  • 廃業・再チャレンジ枠は、承継・M&Aの試みが実らず廃業に至り、かつ廃業後に何らかの新たな取り組みを始める場合に限られる、実際には使い道が限定的な枠
  • 2026年5月22日公表の第15次公募から、小規模の売り手向けに「小規模売り手支援類型」(補助率3分の2、上限450万円)が新設された
  • 各枠の補助率・上限額・対象経費は枠ごとに異なる(本文の表を参照)。自分がどの枠・類型に該当するかは、対象者と対象経費の両方を確認して判断する
  • 公募要件は回次ごとに変わるため、この記事だけで判断せず、申請を検討する段階では必ず公式サイトで最新の公募要領を確認する
  • 補助金は後払いのため、専門家費用の支払いが先行し、入金までまとまった期間がかかる。GビズIDプライムアカウントの取得にも時間がかかることは、早めに把握しておく
  • 国の制度とは別に、都道府県・市区町村独自の補助金・助成金もある。東京都の例は「東京都の事業承継支援助成金とは?国の補助金との違いを整理」で扱っている

最終確認日:2026年8月14日(第15次公募の情報をもとに作成しています。次回公募の情報が公表され次第、内容を更新する予定です)

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)