最終更新日:2026-10-12

税理士事務所を譲渡したときの売り手の税金は?雑所得か約20%の分離課税かは、事務所の形と抜け方で決まる

事務所を譲渡したとき、売り手にどんな税金がかかるかは、譲渡の金額よりも先に、売り手の事務所の形と、どういう形で抜けるかで決まります。この記事では、その組み合わせを一枚の図にまとめ、それぞれの詳しい仕組みは個別の記事に案内します。

扱うのは売り手が受け取るお金の課税です。買い手側の課税と、税理士法人同士の合併・事業譲渡の課税は、この記事では扱いません。

売り手個人の課税は3通り

売り手の事務所の形と抜け方によって、売り手個人の課税が3通りに分かれる様子を示す図個人事務所税理士法人の社員持分を譲渡退社して払戻し別枠:法人間で引継ぎ問い1売り手の事務所の形は問い2どういう形で抜けるか雑所得(総合課税)相手が個人の税理士でも税理士法人でも同じ譲渡益に分離課税 約20%相手は個人の税理士に限る他の所得と合算されないみなし配当(総合課税)残りは譲渡収入とみなされ譲渡益に分離課税合併・事業譲渡取引するのは法人自身(この記事の範囲外)
税金が軽く見えるのは持分の譲渡ですが、選べるかどうかは税理士法の制約で決まります(本文参照)
売り手の事務所の形抜け方売り手の課税詳しい記事
個人事務所顧問先を引き継いでもらう雑所得(総合課税)個人のまま譲渡したときの手取り
税理士法人の社員持分を譲渡する譲渡益に分離課税 約20%持分の現金化
税理士法人の社員退社して払戻しを受けるみなし配当は総合課税。残りは譲渡収入とみなされ、譲渡益に分離課税持分の現金化
(別枠)税理士法人合併・事業譲渡で、税理士法人の間で事業を引き継ぐ取引するのは法人自身なので、この記事の範囲外—

個人事務所なら、相手が税理士法人でも雑所得

個人で営んでいる事務所の顧問先を引き継いでもらう対価は、雑所得として総合課税の対象になります。税理士業務は一身専属的なもので譲渡できる資産ではなく、対価は顧問先をあっせんしたことへの対価だ、という整理です。国税庁の通達(昭和42年)と平成22年の裁決が、他の税理士等に顧問先を引き継いだ対価を雑所得としています。

この扱いは、相手が税理士法人でも変わりません。雑所得と判断した静岡地裁の判決(平成25年5月10日。東京高裁平成25年10月10日判決で確定。事実関係と判断の内容はMJS租税判例研究会の解説資料で確認できます)は、個人の税理士が自分の業務を税理士法人に4,000万円(消費税込み)で譲渡した事案でした。売り手はその法人に社員税理士として加入し、3年間残る契約でしたが、それでも譲渡所得ではなく雑所得とされています。

総合課税なので、税率はその年の他の所得と合算して決まり、最も高い税率帯では限界税率がおよそ55.9%になります。仕組みと、複数年に分けて譲渡する考え方は税理士事務所を個人のまま譲渡すると、手取りはいくら残るか?で扱っています。

税理士法人の社員なら、抜け方で分かれる

税理士法人の社員として事務所を持っている場合、法人を残したまま抜ける形は2つあります。

  • 持分を譲渡する:持分は税金の上では「株式等」に含まれ、譲渡益(譲渡代金から取得費などを引いた額)に申告分離課税で約20%(所得税15%・住民税5%に、復興特別所得税等が加わる)。他の所得と合算されない
  • 退社して払戻しを受ける:払戻額のうちみなし配当になる部分は配当所得で、原則として総合課税。残りの部分は譲渡収入とみなされ、持分の譲渡と同じく譲渡益に分離課税

税率だけを見れば持分の譲渡が有利ですが、持分を譲り受けられるのは個人の税理士に限られます(税理士法第48条の4)。社員が1人になった状態が6か月続くと法人は解散するので(税理士法第48条の18第2項)、買い手の側で社員をそろえられるかも条件になります。詳しくは税理士法人の持分をどう現金化するか?で扱っています。

相手が税理士法人の場合は、法人は社員になれないので持分は買えません。事務所を引き継ぐ形は、合併か事業譲渡になります。形の使い分けは税理士法人を引き継ぐ場合に注意すべき税理士法の要件で扱っています。

個人同士で法人を作ってから持分で売れば、約20%になるか

個人事務所のままだと雑所得になり、持分なら譲渡益に約20%で済む。そうであれば、売り手と買い手が先に2人で税理士法人を作り、顧問先を法人に移してから持分を譲れば、約20%で済むのではないか。こう考える方もいると思います。

結論から言うと、この形で譲渡益への約20%の分離課税として通るとも、そうならないとも、確かめられた材料はありません。確かめられたのは、次のことです。

顧問先を法人に移した対価は、社員になっても雑所得とされた

上の静岡地裁の判決は、法人を共同で作った後に持分を譲渡した事案ではありません。ただ、顧問先を税理士法人に移して法人から対価を受け取った部分は、売り手がその法人の社員になっていても雑所得とされました。法人を作っても、顧問先を移すときに対価を受け取れば、その対価は個人事務所を譲渡したのと同じ扱いになると考えておくのが自然です。

対価を受け取らずに移した場合は、判断の材料がない

対価を受け取らずに顧問先との契約を法人に切り替えれば、法人の収益の見込みが上がり、持分の売買価格に反映されることが考えられます。その持分を譲渡すれば、形式の上では持分の譲渡です。ただし、次の点が問題になりえます。

  • 顧問先との契約を対価なしで法人に移す段階で、個人の側や法人の側に課税の問題が生じないか
  • 後で持分を売るときの代金が、形の上では持分の代金でも、中身は顧問先を紹介した見返りだと見られないか。たとえば、法人を作ってから間もなく売り、その価格を自分が連れてきた顧問先の顧問料から計算している場合です。そう見られれば、静岡地裁の事案と同じく雑所得の扱いに近づきます

税理士法人の持分を使ったこの形を判断した裁決や判例は、確認できていません。持分の取得費をいくらとみるかによっても、譲渡益の額は変わります。

税理士法の制約が先に効く

税金の問題より前に、税理士法が次のような条件を課しています。

  • 法人を作るには、社員になる税理士が共同して定款を定める必要があり、設立の時点で2名が要る(税理士法第48条の8第1項)
  • 社員は、自分のために法人の業務の範囲に属する業務を行えない(税理士法第48条の14)。買い手が個人事務所を営んでいるなら、社員になった後は同じ業務を個人では続けられないので、法人に移すかやめるかの整理が要る
  • 売り手が持分を譲って抜けると、買い手1人が残る。その状態が6か月続くと法人は解散するので、それまでにもう1名の社員を加える必要がある(税理士法第48条の18第2項)

この形を検討するなら、税金の見通しと税理士法上の段取りの両方を、実行前に第三者の税理士や弁護士に確認してください。

まとめ

  • 売り手個人の課税は、事務所の形と抜け方で決まる。個人事務所の顧問先を引き継いでもらう場合、持分の譲渡、退社による払戻しの3通りに分かれる。合併・事業譲渡で税理士法人の間で引き継ぐ場合は、取引するのが法人自身なので別に考える
  • 個人事務所の譲渡対価は、相手が個人の税理士でも税理士法人でも雑所得で、総合課税になる。法人に社員として加入した売り手でも、雑所得とされた判決がある
  • 税理士法人の社員なら、持分の譲渡は譲渡益に約20%の分離課税、退社による払戻しはみなし配当の部分が総合課税。ただし持分を買えるのは個人の税理士だけ
  • 個人同士で法人を作ってから持分で売る形は、顧問先を移すときに対価を受け取れば、その対価は雑所得と同じ扱いになると考えておくのが自然。対価なしで移した場合に約20%で通るかは、確かめられた材料がない
  • この形は、設立に2名が要る、社員が1人になると6か月で解散する、などの税理士法の制約が先に効く

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)