最終更新日:2026-10-13

税理士法人の合併、所長の辞め方次第で税務上の扱いが変わる

税理士法人同士の合併は、顧問契約を1件ずつ移す手間がかからない形です。消滅する法人の権利義務は、存続する法人がまとめて引き継ぎます(税理士法第48条の19第4項)。総社員の同意、債権者の異議手続き、登記、届出といった手続きは、税理士法人を引き継ぐ場合に注意すべき税理士法の要件と届出の期限で扱っています。この記事で扱うのは税金です。

結論から言うと、合併が法人税法の要件を満たせば、消滅する法人にも、その社員にも、合併の時点では課税されません。税理士法人同士の合併は、この要件を満たしやすい形をしています。ただ、事務所の承継の手段として合併を選んだ場合、引退する所長の抜け方によっては要件を満たさず、法人と社員の両方に課税されることがあります。この記事では、要件の中身を確かめたうえで、所長の抜け方ごとに課税がどう変わるかを整理します。

要件を満たす合併(適格合併)なら、合併の時点では課税されない

法人税法は、合併を2つに分けています。一定の要件を満たす合併を適格合併といい、満たさない合併を非適格合併といいます。

適格合併非適格合併
消滅する法人帳簿の金額で引き継ぐので、課税されない資産・負債を時価で譲渡したものとして、時価と帳簿の金額の差が譲渡損益になる
その社員存続する法人の持分だけを受け取り、課税されない持分の代わりに現金を受け取る社員がいることもある。受け取った持分や現金の時価が、資本金等の額のうち持分に対応する部分を超えれば、みなし配当が生じる。一部の社員にでも現金が渡ると、持分だけを受け取った社員にも、受け取った持分の時価のうちみなし配当を除いた部分に譲渡損益が生じる
存続する法人帳簿の金額で受け入れる払った対価が受け入れた資産・負債の時価純資産を超える部分は、税務上ののれん(資産調整勘定)として、60か月で経費になる

適格合併では、消滅する法人の資産と負債は帳簿の金額で引き継がれます(法人税法第62条の2第1項)。税理士事務所の価値の大半は、帳簿に載っていない顧問先との関係にあるので、その含み益に課税されないまま、存続する法人に移ることになります。消滅する法人の社員にも、みなし配当は生じません(所得税法第25条第1項第1号)。

非適格合併の中身は、後の節で見ます。

税理士法人同士の合併は、「共同で事業を行うための合併」の要件で判定される

適格合併の要件には、グループ内の合併の要件と、共同で事業を行うための合併の要件があります(法人税法第2条第12号の8)。グループ内の合併とは、同じ人が両方の法人の過半を持っている場合などの合併です。

税理士法人同士では、この形は成り立つ場面が限られます。税理士法人の社員は他の税理士法人の社員になれず(税理士法第48条の14第1項)、法人は社員になれないからです(同法第48条の4第1項)。同じ人が両方の法人の出資を持つことができないので、親族がそれぞれの法人の過半を持っているような場合を除き、判定は共同で事業を行うための合併の要件で行うことになります(親族の持分を合わせて過半になるかは、法人税法施行令第4条の2第1項で確かめます)。

その要件は次の5つで、すべてを満たす必要があります(法人税法施行令第4条の3第4項)。

要件中身税理士法人同士の場合
事業の関連性両方の法人の事業が互いに関連しているどちらも税理士業務なので、通常は満たす
規模か役員売上・従業者の数・出資金のどれか1つの規模の差がおおむね5倍以内か、両方の法人の代表格の役員が合併後も代表格に残る見込み売上に大きな差があっても、出資金の差が5倍以内なら満たす
従業者の引継ぎ消滅する法人の従業者のおおむね8割以上が、合併後も働く見込み所長本人も従業者に数える
事業の継続消滅する法人の事業が、合併後も続く見込み通常は満たす
持分の継続保有消滅する法人の出資の過半を持つ人がいる場合、その人が合併で受け取った持分を持ち続ける見込み過半を持つ所長の退社や持分の譲渡が、合併の時点で決まっていると満たさない

規模の比較は、売上・従業者の数・出資金のどれか1つが5倍以内であれば足ります(法人税基本通達1-4-6)。税理士法人の出資金は事務所の規模ほどには差が開かないことが多いので、売上が10倍違う法人同士でも、この要件は満たせることがあります。

規模の差がどれも5倍を超える場合は、代表格の役員が残る要件で満たすことになります。その場合、残るとされた役員が合併後すぐに退くと、国税庁は「適格要件を形式的に満たすためだけに就任させたのではないかと見る余地」があるとしています(国税庁の質疑応答事例「特定役員引継要件」)。所長を残る役員として数えておき、合併後まもなく引退する形は、これに当たりえます。

これに加えて、消滅する法人の社員が、存続する法人の持分以外のもの(現金など)を受け取らないことが前提です(法人税法第2条第12号の8)。

ここまでを見ると、税理士法人同士の合併は適格合併になりやすい形をしています。引っかかるのは、表の下の2つと、この前提です。どれも、所長が抜けることと関わります。

所長の抜け方によって、要件を外れる

例で考えます。A税理士法人の社員は、引退したい所長の甲さん(出資の80%)と、若手の乙さん(出資の20%)の2人です。B税理士法人がA法人を吸収合併します。

甲さんが現金を受け取ると、合併全体が要件を外れる

甲さんは引退したいので、B法人の持分ではなく現金で受け取りたいと考えるのが自然です。ところが、消滅する法人の社員に存続する法人の持分以外のものが渡ると、その合併は適格合併になりません(法人税法第2条第12号の8)。

要件を外れるのは、甲さんの分だけではなく、合併全体です。持分だけを受け取った乙さんも、非適格合併の社員として扱われます。

甲さんの退社が決まっていると、持分を受け取っても要件を外れる

では、甲さんもいったんB法人の持分を受け取り、B法人の社員になる形にすればよいか。

甲さんはA法人の出資の過半を持っているので、持分の継続保有の要件がかかります。合併契約や引継ぎの合意で、「2年後に退社して払戻しを受ける」「持分を後継の税理士に譲る」といった予定が合併の時点で決まっていれば、受け取った持分を持ち続ける見込みがないことになり、要件を満たしません(法人税法施行令第4条の3第4項第5号)。合併とセットで引継ぎのための関与期間を決めておく場合は、この点とぶつかります。いずれ引退したいという漠然とした意向があるだけで、直ちに要件を外れるわけではありません。

この要件は、出資の過半を持つ人がいる場合にだけかかります。過半を数えるときは、その人の親族などが持つ分も合わせます(法人税法施行令第4条の2第1項)。甲さんと乙さんが50%ずつで、親族関係もなければ、この要件はかかりません。

小さな事務所では、所長が抜けるだけで8割を下回ることがある

従業者の引継ぎの要件も、所長が抜けることと関わります。ここでいう従業者は、使用人に限らず、役員なども含めて、合併の直前にその事業に従事している人です(法人税基本通達1-4-4)。所長本人も数えます。

A法人が甲さん・乙さんとスタッフ2人の4人なら、甲さんが合併と同時に退くだけで、引き継ぐのは4人中3人、75%になります。スタッフが1人辞めても同じです。条文は「おおむね8割以上」なので、75%で直ちに要件を外れると決まっているわけではありませんが、8割を下回る以上、満たすかどうかは事情に照らした判断になります。人数が少ない事務所ほど、1人の動きでこの境目に近づきます。

要件を外れると、通常は法人と社員の両方に課税され、現金を受け取っていない社員にもかかる

非適格合併になると、課税は次のように変わります。ここでは、A法人の顧問先との関係などに価値があり、甲さん・乙さんが受け取る持分や現金が、A法人の帳簿の金額や資本金等の額を上回る、という通常の場面を前提にします。

消滅する法人(A法人):移転した資産と負債を合併の時の時価で譲渡したものとして、時価と帳簿の金額の差が、A法人の最後の事業年度の譲渡損益になります(法人税法第62条第1項・第2項)。帳簿に載っていない顧問先との関係などの価値が時価に含まれていれば、ここで譲渡益として表に出ます。この法人税を納める義務は、合併で消えるA法人ではなく、B法人が引き継ぎます(国税通則法第6条)。

消滅する法人の社員(甲さん・乙さん):受け取った持分や現金の時価のうち、A法人の資本金等の額のうちその持分に対応する部分を超える額が、みなし配当として配当所得になります(所得税法第25条第1項第1号)。配当所得は原則として総合課税です。

持分だけを受け取った乙さんにも、みなし配当は生じます。現金は1円も受け取っていないのに、受け取った持分の時価をもとに課税され、納税資金は自分で用意することになります。譲渡損益のほうは、誰かに現金が渡ったかどうかで分かれます。社員の誰かに持分以外のもの(現金など)が渡った合併では、受け取った持分や現金の時価のうちみなし配当を除いた部分が、A法人の持分の譲渡収入とみなされ、取得費との差額が譲渡損益になります(租税特別措置法第37条の10第3項第1号)。この判定は社員ごとではなく合併全体で行うので、甲さんが現金を受け取れば、持分だけを受け取った乙さんにも譲渡損益が生じます。一方、全員が持分だけを受け取り、持分の継続保有など別の要件で非適格になった場合は、みなし配当は生じますが、譲渡損益は生じません(同号)。

存続する法人(B法人):払った対価が、受け入れた資産・負債の時価純資産を超える部分は、税務上ののれん(資産調整勘定)として、60か月で均等に経費になります(法人税法第62条の8第1項・第4項・第5項)。

適格合併なら、A法人の譲渡益も、甲さん・乙さんのみなし配当も生じません。そのかわり、B法人は帳簿の金額で受け入れるので、資産調整勘定は生じず、顧問先との関係の価値を経費にすることもできません。B法人から見ると、非適格合併は、A法人の法人税を引き継いで今払う一方、対価のうち時価純資産を超える部分を60か月かけて経費にしていく形になります。払う税額と経費にできる額は計算の仕方が違うので、同じ額にはなりません。税金の面で、売り手側と買い手側の損得は一致しません。

なお、消費税は、適格か非適格かを問わず、合併にはかかりません。合併は権利義務をまとめて引き継ぐ包括承継で、資産の譲渡には当たらないとされているためです。顧問先を事業譲渡で引き継ぐ場合に消費税がかかるのとは、ここが違います(税理士事務所の買い手の税務上のポイント)。

所長の抜け方ごとに並べると、4通りになる

ここまでを、甲さんの抜け方ごとに並べます。A法人のほかの要件(事業の関連性、規模、事業の継続)は満たしているものとします。

抜け方合併甲さんの課税
当面は残る適格になりうる。ただし従業者の8割は別に確かめる合併の時点ではない。後で抜けるときに、持分の譲渡か退社による払戻しとして課税される
退社予定で残る甲さんが過半を持ち、合併の時点で退社や譲渡が決まっていれば、非適格合併の時点でみなし配当。乙さんにも生じる
現金を受け取る非適格合併の時点でみなし配当と譲渡損益。乙さんにもみなし配当と譲渡損益が生じる
合併前に退社残った社員で判定。ほかの要件を満たせば適格になりうる退社による払戻しとして課税される

「当面は残る」と「合併前に退社」で甲さんにかかる課税は、合併とは関係なく、税理士法人の社員が抜けるときの課税です。持分の譲渡なら申告分離課税、退社による払戻しならみなし配当の部分が原則として総合課税になります(税理士法人の持分をどう現金化するか?)。

「合併前に退社」には、税金とは別に2つの注意があります。1つは、払戻しの原資がA法人の財産であることです。いくら払い戻されるかは定款と法人の財産の状況によるので、合併で受け取るはずだった額と同じになるとは限りません。もう1つは、甲さんが抜けるとA法人の社員は乙さん1人になることです。社員が1人の状態が6か月続くと法人は解散するので(税理士法第48条の18第2項)、合併はその前に終えることになります。

合併を承継の手段に使うなら、所長がいつ、何を受け取って抜けるかを、合併の形と一緒に決めておく必要があります。合併の後の退社や持分の譲渡を、合併の時までに一体の計画として決めていれば、その予定が要件の判定に入るためです。

まとめ

  • 税理士法人同士の合併は、法人税法の要件を満たせば、消滅する法人にも社員にも、合併の時点では課税されない
  • 税理士法人の社員は他の税理士法人の社員になれないので、判定は通常、共同で事業を行うための合併の要件で行う。事業の関連性と規模の要件は満たしやすく、規模は出資金の差だけで足りることもある
  • 引退する所長が現金を受け取ると、合併全体が要件を外れる。出資の過半を持つ所長の退社や持分の譲渡が合併の時点で決まっていると、持分を受け取っても要件を外れる。小さな事務所では、所長が抜けるだけで従業者が8割を下回り、要件を満たすかが微妙になることがある
  • 要件を外れると、消滅する法人では資産・負債の時価と帳簿の金額の差が譲渡損益になり(法人税を納める義務は存続する法人が引き継ぐ)、社員には受け取ったものが資本金等の額のうち持分に対応する部分を超える額にみなし配当が生じる。持分しか受け取っていない社員にもかかる。一部の社員にでも現金が渡ると、持分しか受け取っていない社員にも譲渡損益が生じる。存続する法人は、対価のうち時価純資産を超える部分を60か月で経費にできる
  • 合併を承継に使うなら、所長の抜け方を合併の形と一緒に決めておく

この記事は、条文と国税庁の通達をもとに整理したものです。税理士法人同士の合併について、適格かどうかを判断した公表の裁決・判例は確認できていません。代表社員が規模の要件に代わる「代表格の役員」(特定役員)に当たるかも、通達の一般的な定め(法人税基本通達1-4-7)から考えられるだけで、税理士法人について直接書いた資料は見つかっていません。「合併前に退社」の形が、合併と一体の計画としてどう扱われるかを判断した資料も見つかっていません。実際の案件では、合併の形を決める前に、第三者の税理士に確認してください。

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)