最終更新日:2026-09-14

税理士法人の持分をどう現金化するか?譲渡は約20%、退社による払戻しは総合課税

個人で営んでいる事務所で、顧問先を引き継いでもらう対価は、雑所得として総合課税の対象になります(税理士事務所を個人のまま譲渡すると、手取りはいくら残るか?)。では、税理士法人の社員として事務所を持っている場合はどうなるか。

法人を存続させたまま社員が抜ける場面で通常出てくるのは、持分を譲渡する形と、退社して持分の払戻しを受ける形です。前者は申告分離課税、後者はみなし配当として原則総合課税で、適用される規定がまるごと違います。

ここで引っかかるのは、当てはめのほうです。持分の課税を扱った解説は合同会社を前提にしたものが多く、税理士法人は会社法上の会社ではないため、そのまま当てはめてよいのかが条文で確かめないと分かりません。この記事では、そこを条文に当たって確認します。

持分の譲渡が成り立つのは、買い手が個人の税理士である場合

前提として、この記事が扱うのは売り手が税理士法人の社員として事務所を持っている場合です。個人事務所には持分がないので、この話は出てきません。

そのうえで、持分の譲渡という形が取れるのは、買い手が個人の税理士であるときに限られます。税理士法第48条の4が「税理士法人の社員は、税理士でなければならない」と定めているため、買い手が税理士法人であれば社員になれず、持分を譲り受けることもできません。買い手が法人の場合、事務所を引き継ぐ形は合併か事業譲渡になります(この使い分けは税理士法人を引き継ぐ場合に注意すべき税理士法の要件と届出の期限で扱っています)。

社員の人数も前提になります。税理士法人の社員は2名以上必要なので(設立時は第48条の8第1項が「共同して定款を定めなければならない」とし、第48条の18第2項が社員1人の状態が6か月続いた場合の解散を定めています)、売り手側の法人にはもともと2名以上の社員がいます。

  • 所長1人が抜けて、他の社員が残る場合:買い手が個人の税理士1人でも、法人はそのまま続きます
  • 社員全員が抜けて、事務所ごと譲る場合:買い手側で2名を揃えることになります

もう一方の出口が、退社して持分の払戻しを受ける形です。買い手に持分を買ってもらうのではなく、法人から自分に対して金銭が出ていく点が違います。ただし、いくら払い戻されるかは持分の計算や定款、法人の財産の状況によるので、退社すれば希望額を受け取れるという話ではありません。

以下では、この2つについて見ます。解散に伴う残余財産の分配や、合併等の組織再編に伴って交付を受ける場合は、また別の規定によります。

譲渡が分離課税になる根拠は、「その他法人の出資者の持分」

租税特別措置法第37条の10は、一般株式等の譲渡による所得を他の所得と区分して課税すると定めています。問題は、税理士法人の持分がここでいう「株式等」に入るかどうかです。

同条第2項第2号は、次のように列挙しています。

特別の法律により設立された法人の出資者の持分、合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分、法人税法第二条第七号に規定する協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分

列挙の末尾が「その他法人の出資者の持分」で閉じられています。税理士法人は税理士法第48条の2以下に基づいて設立される法人であり、会社法上の会社ではありませんが、この号は会社に限定していません。合同会社を前提にした解説をそのまま当てはめてよいか、という迷いは、この文言で解消します。

税率は、国税庁のタックスアンサーNo.1463が一般株式等に係る譲渡所得等について「20%(所得税15%、住民税5%)」としており、これに所得税額に上乗せされる復興特別所得税等が加わります。

退社による払戻しは、みなし配当の事由として明記されている

もう一方です。所得税法第25条第1項は、法人の株主等が一定の事由により金銭等の交付を受けた場合、資本金等の額のうち交付の基因となった株式または出資に対応する部分の金額を超える部分を、配当とみなすと定めています。

その事由の第6号に、次のように挙がっています。

当該法人の出資の消却(取得した出資について行うものを除く。)、当該法人の出資の払戻し、当該法人からの社員その他の出資者の退社若しくは脱退による持分の払戻し又は当該法人の株式若しくは出資を当該法人が取得することなく消滅させること。

法人からの社員の退社による持分の払戻しが、事由として明記されています。ここでも法人の種類は限定されておらず、同項が「法人」から除いているのは、法人税法第2条第6号の公益法人等と、人格のない社団等だけです。税理士法人はどちらにも当たらないため、この規定が適用されます。みなし配当は配当所得として、原則として総合課税の対象になります。総合課税の税率の効き方は、個人のまま譲渡した場合の手取り試算で扱っている内容と同じです。

なお、みなし配当になるのは払戻額の全額ではありません。第25条第1項の本文が「資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるとき」としているため、みなし配当として課税されるのはその超える部分です。ここでいう対応部分は法人税法上の資本金等の額から計算されるもので、自分が払い込んだ金額とは一致しません。設立の経緯、その後の増資、社員の加入・脱退の履歴によって変わります。

超えない部分も、課税の外に置かれるわけではありません。租税特別措置法第37条の10第3項第6号により、退社による持分の払戻しで受け取った金額のうち、みなし配当を除いた部分は一般株式等の譲渡収入とみなされます(国税庁のタックスアンサーNo.1536も同じ整理です)。払戻しは、みなし配当の部分が総合課税、残りの部分が持分の譲渡と同じ申告分離課税で計算されます。

並べると、他の所得の影響を受けるかどうかが効く

2つを並べます。

持分の譲渡退社による払戻し(みなし配当部分)
所得区分一般株式等に係る譲渡所得等配当所得
課税方法申告分離課税原則として総合課税
税率20%(所得税15%・住民税5%)+復興特別所得税等他の所得と合算して決まる
他の所得の影響受けない受ける
税額控除―配当控除

差が出るのは税率の数字そのものより、他の所得と合算されるかどうかです。譲渡は他の所得から切り離されるため、その年に事務所の譲渡以外にいくら所得があっても20%(+復興特別所得税等)のままです。一方、みなし配当は合算されるので、金額が大きいほど高い税率帯に入ります。最も高い税率帯に達した部分の限界税率は、所得税(復興特別所得税等を含む)と住民税を合わせておよそ55.9%です(個人のまま譲渡した場合の手取り試算と同じ水準です)。

みなし配当には配当控除があり、国税庁のタックスアンサーNo.1250によれば、剰余金の配当等に係る配当所得については、課税総所得金額等の水準に応じて10%または5%が所得税額から控除されます。ただし、これを差し引いても、高い税率帯では分離課税との差は大きく残ります。

税率差より先に効くのは、税理士法の制約

ここまで見れば、譲渡のほうが有利に見えます。ただし、譲渡を選べるかどうかは税務の外側で決まります。

  • 持分の譲渡には、定款に別段の定めがない限り、他の社員全員の承諾が要ります(税理士法第48条の21第1項による会社法第585条第1項・第4項の準用)
  • 買い手が加入して売り手が抜けた結果、社員が1人になる場合、その状態が6か月続くと法人は解散します(税理士法第48条の18第2項)。買い手が1人であれば、6か月以内にもう1名の社員を用意することになります

どちらも税理士法人を引き継ぐ場合に注意すべき税理士法の要件と届出の期限で扱っている制約です。税率の比較は、これらの条件が満たせる場合に初めて意味を持ちます。

譲渡か払戻しかは、書類の中身で判定される

医療法人を退社して受け取った金銭について、本人が出資持分の譲渡代金だと主張した事例があります。国税不服審判所は、払戻しを求める請求文書や社員総会での出資の取決めから、出資金の払戻しに当たると認定し、出資額を超える部分を配当所得としました(平成元年1月25日裁決。裁決要旨)。

税理士法人の事例ではありませんが、どちらに当たるかを決めたのは本人の主張ではなく書類でした。税理士法の条件を満たして譲渡を選ぶ場合も、契約書などの書類を、法人から払い戻す形ではなく買い手に譲渡する形で揃えておく必要があります。

まとめ

  • 税理士法人の社員が法人を存続させたまま抜けるときの出口は、持分の譲渡と、退社による払戻しの2つ。譲渡の形が取れるのは、買い手が個人の税理士の場合に限られる
  • 持分の譲渡は申告分離課税で、税率は20%(+復興特別所得税等)。税理士法人は会社法上の会社ではないが、その持分も課税の対象となる「株式等」に含まれる
  • 退社による払戻しは、資本金等の額のうち持分に対応する部分を超えた分がみなし配当となり、原則総合課税。残りの部分は、譲渡と同じ申告分離課税で計算する
  • 差が出るのは、他の所得と合算されるかどうか。みなし配当は合算されるため、高い税率帯では限界税率がおよそ55.9%に達し、配当控除を引いても差は大きく残る
  • ただし、譲渡を選べるかは税理士法の制約(他の社員の承諾、社員が1人になった場合の解散)で決まる。選んだ場合も、税務上どちらに当たるかは書類の中身で判定される

この記事は、条文と国税庁の公表資料をもとに、どの規定が当てはまるかを整理したものです。実際の税額は、資本金等の額のうち持分に対応する部分、取得費、その年の他の所得の状況によって変わります。実行前に、第三者の税理士に試算を依頼してください。

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)