最終更新日:2026-09-14

評価の基礎になる「継続売上」に、どこまで含めるか?スポット業務との線引き

年間顧問料に倍率を掛ける方式では、倍率が0.5〜1.5倍、中心はおおむね1倍前後です。倍率が1倍前後ということは、基礎に入れた金額がほぼそのまま評価額になるということです。何を基礎に入れるかは、倍率の交渉と同じかそれ以上に金額を動かします。

相場記事でも触れたとおり、各媒体は「継続的に見込める収入を基礎にする」という点で一致しています。ただし、境界線上の業務をどちらに入れるかまでは示されていません。この記事は、その線引きを整理するものです。

なお、媒体によって「年間顧問料」「年間売上高(スポットを除く)」「毎年安定して見込める報酬」と呼び方が違いますが、指しているものはほぼ同じです。この記事では継続売上と呼び、月額の顧問料だけでなく決算報酬や記帳代行も含めた、毎年繰り返し発生する報酬の合計を意味するものとします。

公表されている定義は、両端だけ

各媒体が明示している範囲は、次のとおりです。

扱い業務出典
含める顧問料、決算報酬、確定申告報酬、記帳代行士業事務所M&A支援協会
除く相続案件などのスポット収入、一時的な特需同上
除く相続等のスポットの売上税務研究会

毎月・毎年決まって発生するものは含め、単発のものは除く。ここまでは共通しています。問題は、その間にある業務です。

判断の軸:所長が代わっても、来年も同じように発生するか

買い手が対価を払っているのは、過去の実績ではなく、引き継いだ後に発生する売上です。「昨年たまたま大きな相続案件があった」という売上は、来年も同じ金額が立つとは限りません。

この軸で、実際の業務を仕分けると次のようになります。

業務扱い理由
月次顧問料継続契約が続く限り毎月発生する
決算・申告報酬(顧問先)継続顧問先ごとに毎年1回発生する
記帳代行継続契約に基づき毎月発生する
単発の確定申告(顧問契約なし)要検討個々の依頼者は継続しないが、件数としては毎年繰り返すことがある。下記参照
年末調整・法定調書継続に近い毎年発生する。ただし下記の注意点あり
償却資産申告継続に近い対象資産がある顧問先で毎年発生する
給与計算継続に近い月次契約なら毎月発生する。社会保険の手続きまで含めている場合は、業務範囲の切り分けを確認する
税務調査対応スポット調査が入ったときだけ発生する
相続税申告スポット発生時期も件数も読めない
事業承継・組織再編の相談スポット案件ごとの単発
補助金申請支援スポット制度と募集時期に左右される

単発の確定申告は、流入経路で判断が変わります

顧問契約のない確定申告だけの依頼は、他の業務と違って、業務の性質だけでは仕分けできません。個々の依頼者が来年も来るとは限らない一方、確定申告の時期に一定の件数が入る事務所では、金額としては毎年繰り返しているためです。

判断材料になるのは、その依頼がどこから来ているかです。事務所の立地や看板、既存の紹介経路から毎年入ってくるものであれば、経営主体が変わっても件数は続きやすくなります。一方、所長個人の評判やつながりで来ているものは、引き継げるとは限りません。

実務的には、過去3年程度の件数と金額の推移を示したうえで、継続売上とは別枠で提示するのが説明しやすいと考えられます。件数が安定していれば、その安定性自体が交渉材料になります。

年末調整は、顧問料に含めているかで扱いが変わります

年末調整は毎年発生するので継続に入れやすい業務ですが、月額顧問料に含めている事務所と、別途請求している事務所があります(マネーフォワードの解説でも、含めるかどうかは事務所によると説明されています)。

別建てで請求している場合、顧問料の集計に入っていないため、基礎から漏れることがあります。逆に、顧問料に含めている事務所が年末調整分を別途上乗せすると、二重計上になります。自分の事務所がどちらの運用かを確認したうえで、どちらか一方に寄せることが必要です。

継続に入れても、引き継げるとは限らない

事業譲渡のように契約の主体が変わるスキームでは、顧問契約を移すのに顧問先の承諾を得るか、新たに契約を結び直すことになります。一方、合併のように法人格ごと引き継ぐ場合は、契約の主体自体が変わりません。

ただし、どのスキームであっても、経営主体が変われば一定数は離脱します。特に、前所長個人との関係で続いていた契約ほど、その傾向が強くなります。継続売上として集計されていることは、その金額がそのまま翌年も立つことを保証しません。

つまり、基礎の金額を正しく積んだうえで、そこからどれだけ離脱するかを別に見積もる必要があります。この点は顧問先の解約は何%まで織り込むべきかで扱っています。

スポットだから価値がゼロ、ではない

スポット業務を基礎から除くのは、倍率を掛ける計算に馴染まないからであって、価値がないという意味ではありません。

毎年一定の相続案件が発生している事務所は、その案件を生み出している顧問先基盤や紹介経路そのものに価値があります。問題は、相続案件の売上を評価に含めること自体ではなく、単年度の実績を検証しないまま、継続売上と同じ倍率で評価してしまうことです。発生件数の推移や紹介経路を説明できないと、上乗せの根拠を示せません。基礎からは外したうえで、価格交渉の材料として別に説明する方が、話が通りやすいと考えられます。

売り手は基礎を広く取りたくなり、買い手は内訳と推移を求める

売り手側が基礎を広く取りたくなるのは自然ですが、スポット業務を継続売上に混ぜて提示すれば、デューデリジェンスの段階で内訳を求められることになります。そこで説明できないと、金額の問題ではなく、提示された数字全体の信頼性の問題になります。最終契約では、提示した情報の正確性を保証することにもなります(表明保証条項参照)。

買い手側は、提示された継続売上の内訳を業務別に求めることになります。あわせて、過去3年程度の推移を見ると判断しやすくなります。継続売上に分類されているのに毎年金額が大きく上下している項目があれば、実質はスポットに近い可能性があります。

まとめ

  • 年間顧問料に倍率を掛ける方式では倍率が1倍前後のため、基礎に入れた金額がほぼそのまま評価額になる
  • 公表されている定義は「顧問料・決算報酬・確定申告報酬・記帳代行は含み、相続などのスポットは除く」という両端のみで、境界線上の業務の扱いは示されていない
  • 仕分けの軸は「経営主体が変わった後も、来年また同じ売上が立つか」
  • 顧問契約のない単発の確定申告は、業務の性質だけでは仕分けできない。事務所の立地・看板・紹介経路から入っているのか、所長個人のつながりで来ているのかによって、引き継げるかどうかが変わる
  • 年末調整は、月額顧問料に含める事務所と別途請求する事務所があるため、漏れや二重計上が起きやすい
  • 継続売上に分類できることと、実際に引き継げることは別。離脱の見積もりは別途必要
  • スポット業務は基礎から外すが、価値がないわけではない。計算式に混ぜず、価格交渉の材料として別に説明する

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)