最終更新日:2026-09-14

税理士事務所の表明保証条項、含めるべき確認項目とは

最終契約書には、売り手が一定の事実について「これは真実です」と保証する「表明保証条項」という項目があります。一般的なM&Aのひな形をそのまま使うと、財務諸表や訴訟の有無は手当てされていても、税理士事務所特有のリスクが保証の対象から漏れることがあります。この記事では、何を確認・保証させておくべきかを整理します。

表明保証条項とは

表明保証条項とは、契約当事者(主に売り手)が、対象事業の状態について一定の事実(財務状況、資産の権利関係、法令遵守状況など)が真実であることを契約書上で保証する条項です。クロージング後に表明保証の内容が事実と異なっていたことが判明した場合、買い手は補償(価格調整・損害賠償)を請求できる設計にするのが一般的です。つまり表明保証は、契約時点では見えていないリスクを、後から手当てするための仕組みです。

業界特有で確認しておきたい項目

一般的なM&Aひな形の表明保証は、株式・財務諸表・訴訟・知的財産権などを想定して作られています。税理士事務所のような資格業・サービス業では、これらに加えて次のような項目が実質的なリスクの中心になります。

1. 税理士資格・登録の有効性

譲渡人(所長)自身、および事務所に在籍する有資格スタッフの登録状況です。日本税理士会連合会の税理士情報検索サイトで、現在有効に登録されているかを確認できます。共同経営の税理士法人であれば、社員税理士全員について同様の確認が必要です。

2. 懲戒処分歴の有無

過去に懲戒処分を受けていないかです。税理士法第44条が定める懲戒処分の種類は「戒告」「2年以内の税理士業務の停止」「税理士業務の禁止」の3種類で、第45条・第46条が処分の対象となる行為を定めています。このうち「税理士業務の禁止」処分を受けた場合は、税理士法第4条の欠格事由に該当し、処分後3年間は登録が抹消される扱いになるとされています(「業務の停止」処分は、停止期間中は業務を行えないものの、登録自体が抹消されるわけではない点で扱いが異なります)。処分歴の有無は、国税庁の懲戒処分等公表ページや官報掲載情報で確認できます。過去に処分歴がある場合、いつの、どの種類の処分で、現在の登録に影響が残っていないかまで確認しておく必要があります。

3. 顧問契約の有効性・実態

  • 書面契約か、口頭契約(慣行として続いているだけ)か。書面がない顧問先がどの程度あるか
  • 契約の名義(個人名義か、法人名義か)と、実際の請求・入金の実態が一致しているか
  • 報酬の未収がないか、継続契約か、直近の更新時期はいつか

契約書ひな形が業界内に十分定着していないこともあり、書面が整っていない顧問先が一定数残っているケースは珍しくありません。書面がないこと自体を即座に問題視するのではなく、実態としてどれだけの顧問先が継続的な収益源として引き継げるかを確認する材料として使います。

4. e-Tax・eLTAXの認証情報・委任状況

電子申告(国税はe-Tax、地方税はeLTAX)を代理送信する際、顧問先本人の利用者識別番号・暗証番号や電子委任状の管理を、旧所長側で行っているケースがあります。これが引継ぎ時にきちんと引き渡されないと、クロージング直後に電子申告ができず、申告期限に間に合わないという具体的な実害につながり得ます。顧問先ごとの認証情報がどこに、どういう形で管理されているか(旧所長の記憶頼みになっていないか)を、早い段階で確認しておく価値があります。

5. スタッフの雇用関係・就業規則の適法性

未払い残業代など労務上のリスクの有無、有資格者(税理士登録者・科目合格者等)の内訳です。財務諸表には表れにくい潜在債務になりやすいため、表明保証の対象として明記しておく価値があります。

ひな形に足りないのは、資格の有効性と契約関係の実態

一般的なM&Aひな形の表明保証は、事業会社の財務・資産・知的財産権を主眼に作られており、「顧客との契約関係の実態」や「資格者本人の状況」までは想定されていません。税理士事務所のようなサービス業・資格業では、この2つこそが実質的なリスクの中心であるにもかかわらず、一般ひな形をそのまま流用すると保証の対象から漏れてしまいます。上記5項目は、一般ひな形に追加する形で契約書に織り込んだほうがよいでしょう。

表明保証は、補償条項とセットで機能する

表明保証に違反する事実が後から判明した場合に、買い手が補償(価格調整・損害賠償)を請求できるよう、補償条項として契約書に落とし込んでおく必要があります。また、表明保証の期間(クロージング後いつまで請求できるか)も、あわせて契約書上の重要な論点になります。支払条件の設計は譲渡対価の支払条件をどう決めるかで扱っています。補償の具体的な範囲については、契約実務カテゴリの別記事で扱う予定です。

売り手側の備え

買い手から表明保証を求められて初めて事務所の状態を棚卸しするのではなく、検討を始めた段階で上記5項目を自己点検しておくと、交渉がスムーズになります。中でも懲戒処分歴や顧問契約の書面整備状況は、優先して確認しておくことをおすすめします。

まとめ

  • 表明保証条項は、売り手が事実を保証し、違反時の補償請求の根拠になる契約条項
  • 税理士事務所特有で確認すべき項目は、①税理士資格・登録の有効性、②懲戒処分歴の有無、③顧問契約の有効性・実態、④e-Tax・eLTAXの認証情報・委任状況、⑤スタッフの雇用関係・就業規則の適法性の5つ
  • 一般的なM&Aひな形は財務・資産・知的財産権が主眼で、業界特有の項目は別途追加する必要がある
  • 表明保証は補償条項とセットで機能する。保証期間も契約書上の重要な論点になる
  • 売り手側も、検討を始めた段階でこれらの項目を自己点検しておくと交渉がスムーズになる

契約書の具体的な条文設計には専門的な判断が必要です。実際の契約締結前には、必ず弁護士のレビューを受けてください。

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)