最終更新日:2026-09-14

税理士事務所の買収資金に、日本政策金融公庫の融資は使えるか?限度額7,200万円と、買収代金の扱い

事務所を買うと決めて、自己資金と借入の配分まで見当がついたら(自己資金はいくら必要か)、次はどこから借りるかです。

日本政策金融公庫に、事業承継を資金使途として名指しした制度があります。事業承継・集約・活性化支援資金です。国民生活事業のページは、対象者の一つを「安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方および当該事業者から事業を承継・集約される方」としていて、買う側が入っています。

この記事では、限度額・返済期間・資金使途を、公庫が公表している内容にもとづいて整理します。

国民生活事業と中小企業事業の両方にあり、限度額が桁違い

公庫の融資は国民生活事業と中小企業事業に分かれていて、それぞれの限度額と返済期間は次のとおりです。

融資限度額返済期間
国民生活事業別枠7,200万円設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)
中小企業事業直接貸付14億4千万円同上

どちらの窓口になるかは、公表ページに区分の基準が書かれていません。ただ、国民生活事業については、実際の利用状況が公表されています。公庫がスモールM&A向け融資の活用法で、2019年度から2022年度の第三者承継に係る融資1,685件を分析した結果です。

  • 融資金額は、設備資金・運転資金のいずれも500万円以下が約6〜7割、1,000万円以下が約8割
  • 従業者数5人以下が8割、20人以下が約9割
  • 組織形態別では、個人企業への融資が7割、法人企業への融資が3割

限度額は7,200万円ですが、実際に使われているのはその1割前後の小口が中心です。従業者規模も、税理士事務所の多くが収まる範囲に集中しています。

限度額が「別枠7,200万円」と表記されている点は、既に公庫から借りている場合に効いてきます。何に対する別枠として扱われるかは、相談時に確認しておく項目です。

買収代金は、運転資金ではなく設備資金に入る

税理士事務所の買収代金は設備を買うわけではないので、運転資金のほうに見えます。ですが、公庫は前掲のページで、区分をこう注記しています。

注)設備資金には、譲渡企業から買い取る譲渡企業の株式、営業権、事業用資産(店舗、機械設備等)等を含みます。

株式の買取りも営業権の買取りも、設備資金です。税理士事務所の買収代金は、評価額の計算で見たとおり純資産の部分が小さく、支払いの中心は営業権にあたる部分ですが、それも設備資金に入ります。運転資金として扱われるのは、引継ぎ後の人件費など、買収そのものではない資金のほうです。

上限が20年でも、20年で組めるという意味ではない

区分が分かると返済期間の上限も決まります。上の表のとおり、設備資金は20年以内、運転資金は10年以内です。

公庫は融資金額や従業者規模の分布を公表していますが、返済期間については実績も目安も公表していません。案件ごとの審査で決まる部分です。

そのうえで、20年の枠がかかるのは買収代金の部分だけです。運転資金もあわせて借りるなら、そちらは10年以内なので、返済は期間の違う2本立てになります。買収代金を長く組んでも、運転資金の返済が終わるまでは月々の負担が重なります。返済余力から借入額を逆算するときは、この2本を分けて置いてください。

一方、据置期間は設備資金・運転資金とも5年以内と明記されています。据置期間中は元金の返済を止められるので、顧問先の引継ぎが固まるまでの負担を抑える設計が取れます。引継ぎ直後は顧問先の離脱がどこまで出るかが読みきれない時期なので、期間の長さと合わせて相談する価値があります。

借りられるのは、買収代金だけではない

「事業の承継・集約を行う方」の枠の資金使途は、こう書かれています。

事業承継・集約を行うために必要な設備資金および運転資金(当該事業を承継・集約される方が必要な設備資金および運転資金を含みます。)、ならびに事業の承継・集約を契機として必要となる設備資金および運転資金

後半が効きます。買収の代金そのものだけでなく、買収をきっかけに必要になる資金まで含まれています。顧問契約の再締結や請求名義の切り替えが済むまでの入金の遅れ、引継ぎや採用にかかる費用、会計ソフトを統一する費用などが、ここに当たります。この洗い出しは自己資金はいくら必要かのStep1で扱っています。

そして限度額の7,200万円は、設備資金と運転資金を合わせた枠です。買収代金だけを見て枠に収まると判断すると、後から必要になる分の余地が残りません。申し込みの段階から、買収後に要る分まで足した総額で考えることになります。

勤務税理士が独立して買う場合の枠もある

ここまでは、冒頭に引いた「事業の承継・集約を行う方」の枠の話です。対象者にはもう一つ、経営承継円滑化法の認定を受けた方という枠があります。この認定は、事業承継にあたって公庫の融資や信用保証の特例といった金融支援を受けるために、申請して受けるものです。

この枠で挙げられているのは、次の3つです。

  • 認定を受けた中小企業者の代表者
  • 認定を受けた個人である中小企業者
  • 認定を受けた、事業を営んでいない個人

最後の一つが目を引きます。勤務税理士が独立にあたって事務所を買う場合も、認定を受ければここに当たり得ます。ページに勤務税理士と書かれているわけではありませんが、既に事業を営んでいることが前提にされていない枠が、名指しで用意されているということです。

ただし、勤務税理士はこちらの枠しか使えない、という意味ではありません。冒頭の「事業の承継・集約を行う方」の枠についても、事業を営んでいない人を対象外にするとは書かれていません。認定は申請の手間がかかるので、認定のいらない枠で申し込めるかどうかを、先に窓口で確かめる価値があります。

なお国民生活事業では、併用できる特例制度として経営者保証免除特例制度・創業支援貸付利率特例制度などが挙げられています。事業を営んでいない個人として借りる場合は、後者を併用できるかもあわせて確認する価値があります。

まとめ

  • この制度は買い手も対象に含んでいる。「事業の承継・集約を行う方」の枠には、経営承継円滑化法の認定も要件として置かれていない
  • 限度額は国民生活事業が別枠7,200万円、中小企業事業が直接貸付14億4千万円。ただし国民生活事業の実績は融資金額500万円以下が約6〜7割で、小口の利用が中心
  • 買収代金は運転資金ではなく設備資金に入る。公庫の注記に「設備資金には、譲渡企業から買い取る譲渡企業の株式、営業権、事業用資産等を含みます」とある
  • 返済期間の上限は設備資金20年以内・運転資金10年以内、据置は最長5年。ただし上限であって、実際に何年で組まれるかは公表されていない
  • 資金使途は買収代金に限られず、「事業の承継・集約を契機として必要となる設備資金および運転資金」まで含む。限度額は設備資金と運転資金を合わせた枠なので、買収後に要る分まで足した総額で考える
  • 認定を前提とする別の枠に「事業を営んでいない個人」があり、勤務税理士が独立して買う場合も対象になり得る

この記事は、日本政策金融公庫が公表している制度内容を、買い手の視点で整理したものです。実際に借りられるかどうかは審査によるもので、通りやすさについて公表されている情報はありません。金融機関ごとの取扱いや、案件が制度のどの枠に当たるかは、公庫の窓口に直接確認してください。

最終確認日:2026年8月24日(限度額・返済期間・対象者の要件は制度改正で変更されることがあります。数値は上記の各リンク先で確認しています)

監修

税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)