最終更新日:2026-09-14
買い手の資金力・本気度をどう見極めるか?確認すべきポイントを整理
条件のすり合わせに何度もやり取りを重ね、そろそろ契約書の話に進もうかという段階になって、買い手から「資金の目処が立ちませんでした」と言われる——譲渡の検討を進める中で、こうした事態に不安を感じる方は少なくないはずです。時間と心理的なコストをかけた末に振り出しに戻るのは避けたいところです。
この記事は、事務所承継を考え始めるタイミングとはで「道2(第三者承継)」を検討している方向けに、買い手候補の資金力・本気度をどう見極めるかを整理するものです。買い手が自己資金・借入額をどう検討するかを知っておくと、この記事の内容もより具体的にイメージできます。
資金力を早い段階で確認するのは、一般的な実務
不動産取引などでも「Proof of Funds(資金証明)」という考え方があります。住宅ローンを利用する場合、金融機関の事前審査(仮審査)を通っていなければ、そもそも購入の申し込み自体を受け付けてもらえないという運用が一般的です。現金で購入する場合も、残高証明等で資金の裏付けを示すことが求められます。これは、面識のない相手同士の取引で、時間をかけて交渉する前に相手の実行能力を確かめる目的で使われる考え方です。税理士事務所のM&Aで同じ制度がそのまま使われているわけではありませんが、考え方自体は参考にできます。
一般的な流れとしては、まず概要レベルの情報だけで関心の有無を確認し、双方が具体的な交渉に進む意思を固めた段階(秘密保持契約の締結後など)で、より詳細な財務情報のやり取りに進む、という段階を踏むケースが多く見られます。ただし、これも唯一の正解ではなく、事務所の状況や交渉の進み方によって調整が必要な出発点です。
確認する項目は、買い手が個人か法人かで変わる
| 買い手のタイプ | 確認しておきたい情報の例 |
|---|---|
| 個人開業の税理士 | 自己資金の状況(借入を使わない場合)、または金融機関との話がどの段階まで進んでいるか(借入を使う場合)、既存事業がある場合はその決算状況 |
| 税理士法人 | 直近の決算書・試算表、既存の借入状況、買収資金の調達方針(自己資金か借入か) |
買い手が借入を予定している場合は、金融機関との話がどの段階まで進んでいるかも確認しておきたいポイントです。ただし、借入額は本来、買収価格や引継ぎ条件が具体化して初めて金融機関と詰められるものです。そのため、価格等がまだ固まっていない初期段階では「金融機関に事前相談している」程度で十分と考え、条件のすり合わせが進むにつれて、より具体的な進捗(内諾の有無等)を確認していく、という段階的な見方が現実的です。自己資金のみで賄う買い手であれば、この論点自体は当てはまらず、預金残高等の裏付けを確認する形になります。資金力の確認は、後述する顧問先情報の開示と対価としてバーターするものではなく、それぞれ別の基準で判断してください。
資金力だけでなく、本気度も見る
本気度は、買い手の次のような言動からうかがえます。
- 質問の具体性:本気で検討している買い手は、開示された情報の範囲内で、顧問先の業種構成、使用会計ソフト、職員の体制など、実務に直結する具体的な質問をしてくる傾向があります。ただし、情報開示がまだ初期段階であれば質問も大枠にとどまるのが自然なので、開示段階を踏まえずに「質問が浅い=関心が薄い」と決めつけないよう注意してください
- 意思決定の一貫性と回答の速さ:面談のたびに条件や関心の方向性が変わる場合や、確認事項への回答に不自然なほど時間がかかる場合は、社内での意思決定が固まっていない可能性があります
- 専門家の同席:税理士・会計士・M&A仲介者等の専門家を交渉に同席させているかどうかも、本気度を測る材料の一つになります。ただし、小規模な案件では検討の初期段階で専門家を付けていないことも珍しくありません。また、税理士事務所の買い手は税理士本人であることが基本のため、税務・法務の専門知識をすでに自分自身で持っており、あえて別の専門家を同席させないことも珍しくありません。同席の有無だけで判断しないよう注意してください
ただし、これらはあくまで傾向であり、確実な判定基準ではありません。質問が少ない、決断が早いといった特徴だけで本気度を断定せず、資金力の確認とあわせて総合的に判断することをおすすめします。
情報開示は段階的に
買い手候補への情報開示は、関係の進展に合わせて次のように広げていくのが安全です。
- 概要レベル(規模感、地域、業態程度)の情報のみで、まず関心の有無を確認する
- 秘密保持契約(NDA)を締結した上で、より具体的な情報(顧問先の業種構成、売上規模の推移等)を開示する
- 交渉が実質的に進んだ段階で、個別の顧問先情報や職員の詳細に踏み込む
税理士には税理士法上の守秘義務があるため、顧問先が特定できる情報の開示には、原則として顧問先本人の同意が前提になります。買い手候補への情報開示であっても、この点は変わりません。
見極めに時間をかけすぎない
資金力や本気度の見極めは重要ですが、慎重になりすぎて時間をかけすぎると、それ自体が機会損失になることもあります。特に検討を急ぐ事情がある場合は、確認すべき最低限の項目(自己資金の有無、借入なら相談の進捗)を先に絞り込み、それ以外は交渉と並行して確認していく、というバランスも検討してください。
まとめ
- 買い手候補の資金力を早い段階で確認することは、M&A全般でよく見られる実務の一つ。ただし唯一の正解ではなく、状況に応じた調整が必要
- 買い手のタイプ(個人開業か税理士法人か)、資金調達方法(自己資金か借入か)によって、確認すべき情報は異なる。借入を使う買い手については、金融機関との話の進捗を、価格の具体化に応じて段階的に確認する
- 資金力だけでなく、質問の具体性・意思決定の一貫性・専門家の同席といった言動からも本気度がうかがえるが、これらは傾向にとどまり確実な判定基準ではない
- 情報開示は、関心の確認→秘密保持契約の締結→詳細情報の開示、という形で段階的に広げる
- 見極めに時間をかけすぎることも機会損失になり得るため、最低限の確認事項を絞り込んだ上でバランスを取る
監修
税理士事務所承継ラボ編集部(公認会計士・税理士)